シリアの政権崩壊はロシアの戦略的にダメージ
そのロシアが肩入れしてきたシリアのアサド政権が崩壊し、アサド大統領はモスクワに亡命した。
ロシアは2015年からシリアに軍事介入した。反体制派などを空爆し、アサド政権にとって救世主だった。一方で、見返りとして、シリア国内で海軍、空軍の2つの基地を借りてきた。その基地はNATOをけん制する役目を担ってきた。基地を失えば、ロシアの中東、さらにアフリカに及ぶまで、戦略的なダメージはとても大きい。
ロシアは北朝鮮に兵士の派遣を頼るほど、ウクライナでの戦争で手いっぱいだ。シリアに兵力を使う余裕はなかった。アサド政権崩壊で、軍事介入を主導したプーチン氏の威信に傷がついた。その文脈で読めば、窮地にあるロシアは中国との緊密な関係を再確認したい。それを国際社会に見せつけたい。プーチン大統領の側近、メドベージェフ氏の訪中は、そのように演出された。
中国も、ロシアの弱みはわかっているのではないだろうか。したかたに利用している。一方、中国にも事情がある。12月11、12日に北京で、来年の経済運営の方針を話し合う重要会議「中央経済工作会議」が開かれた。習近平氏も演説し、檄を飛ばした。
その会議で、来年2025年も「より積極的な財政政策」を実施することを決めた。中国経済はかなり重症だ。だから、財政出動によって、景気を下支えする方針を明確にしたわけだ。
米トランプ次期政権との間で貿易摩擦が想定される。打撃を減らすためには内需を拡大しなくてはいけない。製造業の“エンジン”を回すにはロシア産の原油を安い価格で、安定して輸入していくことが欠かせない。ロシアの窮状を突き、サポートしながら、自分たちに優位な関係を築き、中国の利益につなげていくという戦略だ。
ウクライナ戦争の陰に中国の存在
最後に、メドベージェフ氏との会談で、習近平氏が発した言葉を、もう一つ紹介しよう。
“「中国とロシアは、国際的な公正と正義を共同で守っていく」”
今の中露のどこが「国際的な公正と正義」なのかは、理解できないが、間もなく年を跨ぐウクライナ戦争の陰に、中国の存在を忘れてはならない。そして、中国とロシアの力関係はよる大きく変化していきそうだ。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。