取材後記

中国のSNS上ではいま「三低三少」というキーワードが話題になっている。「三低」とは所得、社会的地位、社会的人望が低い人。「三少」とは人付き合い、社会と触れ合う機会、不満を口にできる機会が少ない人を意味する。つまり所得水準が低く、社会から孤立する「三低三少」の人々はトラブルを起こす可能性が高いので地域住民は積極的に通報し、地域の安全をみんなで守ろう。そうすれば、凶悪事件を根絶できる、ということだ。しかし王氏が指摘したように、自暴自棄になって「死を恐れずに自ら死に向かって突き進む」ような犯罪者を止める有効な手段にはならないだろう。「所得が低く、社会的な繋がりが弱いから、あいつは犯罪者予備軍だ」と地域住民が通報し合い、監視するような息苦しい世の中は社会的弱者をさらに追い詰めるものになるのではないか、と感じる。

別れ際、服役を終えて4年以上経ってもなお、24時間監視され、当局から数々の嫌がらせを受け続ける王全璋氏は冗談混じりにこう言った。

「当局は何年かしたら、私のように理性的に話せる相手を懐かしく思うかもしれませんね。なぜなら、無差別殺傷事件を起こすような犯罪者に話は通じませんから」

相次ぐ無差別殺傷事件で社会不安が増大している中国。経済不況から抜け出せず社会の閉塞感が強まる中、どのように問題解決を図っていくのか。中国政府には王全璋氏の言葉にも耳を傾けて欲しいと心から願う。

JNN北京支局 室谷陽太