幼いころに実家で親が買ってきた「墓場鬼太郎」の漫画を読んで妖怪に魅かれ、その後、ティム・バートン監督の映画「ビートルジュース」を観て “絵”ではなく、立体化する特殊メイクを志すようになったという快歩さん。
周囲の同級生が面白がる人気アニメなどには目もくれず、ただひたすら 自分の好きな世界を追求してきたといいます。

Q:快歩さんは幼いころ どういう子どもでしたか?
快歩:子どものころから絵を描いたり、何かモノを作るのが好きで、そこからずっと… 妄想の世界じゃないですけれど、「ファンタジーの世界」はずっと好きで、ひたすら「モノづくり」をやっていて、そこから特殊メイクに出会って、「妄想したものが動き出す」って、めちゃくちゃ面白い! みたいになって、そこからずっとこういう仕事をしています。
若くして、有名俳優が出演する映画の特殊メイクを任された事もありましたが、「ただ言われた通りにつくる」仕事には、あまり魅力を感じなかったといいます。
Q:周りの大人から「そんな事をやっても、(仕事として)食べていけないぞ」みたいに言われたことは?
快歩:ありますあります。めちゃくちゃあります… 特殊メイクの世界でも、自分は結構クリエイティブに振っていて、オリジナリティがある作品ばかりを作っていて、ただ(言われた通りに)特殊メイクをするような仕事ではなかった。
かなり「仕事」は選んでいて…「ただ特殊メイクができる人」として、頼まれる仕事はなくて、そのこと(仕事を選ぶため収入は不安定)を心配してくれる人もいたのですが、それでも自分の信じる道をやり続けてったら、こういう世界観でも好きなことができるようになっていったので、そこは「遊んでいて、良かったな」とは思っています。

Q:収入が無い時は、どんなアルバイトを?
快歩:居酒屋と、お弁当屋さんと、組み立て配送のバイト… オフィスにデスクとか、運んだりとか、工場の屋根を直したりとか… めちゃくちゃ色々なバイトをしていました。バイトを掛け持ちして、生活費と材料費を稼いで…(作品をつくるため)材料費にバイト代が全部溶ける… みたいな生活でした。
Q:特殊メイクの仕事をやめようと思ったことはないんですか?
快歩:意外と無くて…(笑) でも、かといって「これで(仕事として)食っていこう!」と決めたのも、なんか成り行きで…「作るのは面白い」「妄想したモノが出現するのが面白い」みたいになって、気づいたら、ずっと続けていて、だんだん仕事になっていった…という感じです。
Q:その自信がぶれなかったのは何でだと?
快歩:何で…ですかね? なんか「自分が見たことの無いものを創りたい」という感情が、すごく強かったので、それがやりたくて生きている部分があって、「特殊メイクがやりたい」というよりは「見たことが無いものを生み出したい」というのが、優先順位の最初にあった衝動なんで… それもあって多分、続けてこれたのではないかなと。
バイトをかけもちしながら、四畳半の部屋で、無我夢中で創作を続ける日々・・・SNSにアップしていた作品のひとつが、たまたまKing Gnuの目に留まり、そこから次々に仕事の依頼が舞い込みます。

■快歩さんの魅力について
これまで、King Gnuの井口さんを宇宙人に変身させたり、ボクサーに扮した藤井 風さんの顔をボコボコにしたりとミュージックビデオを中心に大活躍している快歩さん。
「発注する側のイメージを超えた作品を提案してくれるのが魅力」と、仕事をした人は口をそろえます。
素顔を明かしていない人気シンガー yamaさんのマスクは、当時 メディアに初出演するに当たって、快歩さんが手掛けたものです。

「とりあえず顔を隠したい」というオーダーで、本人もわからない、マネージャーもわからない、誰も正解をわからない状態での制作だったといいます。
「それでも『面白そう』が勝つから、この仕事はやめられない」と話す マイペースな快歩さんですが、「男と鳥」の監督を務めた浅野忠信さんは、さらにマイペースだったようで…
快歩:現場で、自分が見ていない間に急に撮影が始まってしまうこともありました… 個人的には「特殊メイクが崩れていても面白いんじゃないか」と思っていて、映画の中でも(ゾンビ侍の)カツラが思いっきりずれて、中の毛が見えているシーンが実はあって、でも「それはそれで面白いな」って思っています。
