制作中は逃げ出したいほど苦しい…それでも踏ん張って生み出すのは「今一番かっこいいと思うもの」


「ここ数年は視聴者がどう捉えるかというのは敢えて気にしないようにしています」と口にした佐藤氏。

「昨今、ドラマや音楽に限らず、エンターテイメントの受け止め方がこれまでと変わってきているように感じます。さまざまなコンテンツを気軽に視聴する機会が圧倒的に増え、見る側のレベルは非常に高い。だからこそ、こちらが『こういうのが好きでしょ?喜んでくれるんでしょ?』みたいに顔色を伺うような、魂のこもっていない曲を書こうものなら簡単に見透かされてしまうし心に響かない。自分が信じる最良の音楽を勇気を持って書き、視聴者の皆さんに『これが僕が思う今一番格好良い音楽なんだよ』と提案する。そういったエンタメの作り方が伝わるようになったと思います」


時代の流れに沿って作品へのアプローチも変わる楽曲制作。

「初めてドラマの劇伴を手掛けた『GOOD LUCK!!』(2003)のときとは、サウンドもアプローチ法も全く変わっています」と、佐藤氏は自身のドラマ劇伴・処女作を振り返る。

そこから数々の作品に携わってきた佐藤氏だが、制作中には今でも頭を抱えることがあるのだという。

「毎回、全然書けない…どうしよう。逃げちゃおうかな(笑)、と思いながら制作しています。正直めちゃくちゃ苦しい。僕は今年54歳で、これからいくつ仕事ができるかわからない。だからこそ、1つひとつ自分が作曲する意味を見出したいと思っています」

と力強く思いの丈を明かしてくれた。

時に自らのアイデアさえも疑いながら、真摯に作品に向き合い、試行錯誤の末に生み出される劇伴は、 “唯一のフィクション”として視聴者にそっと寄り添う。そんな佐藤氏の劇伴は、多くの人々の記憶に残るドラマの一部として響き続けるだろう。