大切なのは“作品との距離感”。固定概念にとらわれず、作品にふさわしい音楽を

そんな佐藤氏が劇伴を作曲するうえで常に意識しているのは、“作品との距離感”。映像やストーリーに対して、どの程度の距離感で作曲するか気をつけているという。
「感覚的なものなので伝わりづらいかもしれませんが、本作に関しては少なくとも主観的ではないかもしれません。主人公のナレーションがあることで、俯瞰の立場からドラマを見ている印象がありました。音楽もそれに合わせて、寄り添いすぎず、音楽が物語を上から照らしている感じをイメージしました」
と、本作ならではの距離感の取り方を説明。
佐藤氏は今回の楽曲について「民放ドラマの音楽としては少し突き放した感じがあるかもしれない」と振り返りつつ、「もっとわかりやすく感情移入しやすい音楽にもできましたが、濃密な脚本を音楽が過剰に説明する必要はないと思って」と、制作の方向性を口にする。
さらには、「この作品が、このストーリーが、この映像がどんな音楽を求めているのかを探り、固定概念にとらわれず、時に恐れず挑戦する。作品にとって唯一の音楽を目指して作曲しています」と、自身の姿勢を明かしてくれた。

塚原監督のアイデアで現代の登場人物が過去を振り返る、アメリカ映画「タイタニック」と似た構図で進む物語。劇伴からもその片鱗を感じられることを伝えると、なんと佐藤氏はそのアイデアについて知らなかったのだという。
「第1話で船から端島が見えてくるときに流れた曲では、同映画の音楽でも使われたティンホイッスルという楽器を使用しています。でも、もし監督からその話を聞いていたらティンホイッスルは使っていなかったと思います。その勇気はありません。あまりにもベタで恥ずかしいですからね(笑)」
と、偶然のエピソードも飛び出した。