「他人に首をひねってもらう行為はやめた方が良い」

もう一つ、首について。「首が鳴る原理も指が鳴る原理と同じ可能性が高い」と井尻さん。首の骨の「頚椎(けいつい)」の後ろにある「椎間(ついかん)関節」が引っぱられて鳴っているのでは、と推測しています。また、指は一度鳴らすとしばらく鳴らないのに、首は「ポキポキポキ」と数回鳴りますが、これは「椎間関節が複数個あるためと思われます」と井尻さんは話します。

実は、井尻さん自身もずっと首を鳴らしてきたそうです。

その井尻さんは50歳の時に軽い脳梗塞を患いました。50代以下の脳梗塞の原因として、頚椎の中を通る椎骨(ついこつ)動脈の解離で、血栓が飛ぶことが多いとされています。井尻さんの場合もそれが原因でした。

首を過度にひねることで血栓が飛ぶという報告がいくつもあるといいますが、その要因の全てが首ポキポキだとは断言できないといいます。井尻さんはすぐに回復し、いまだに首を鳴らしているといいますが、念のために優しく鳴らすように心がけているそうです。

ただ、「首ポキポキは、場合によっては動脈を傷つける可能性があります」と井尻さん。

さらに、「他人に首をひねってもらうのはやめた方が良いです」とします。厚生労働省は1991年に出した通知の中で、頚椎に急激な「回転伸展操作」を加える療法を禁止する必要があるとしています。

●医業類似行為に対する取扱いについて(厚生労働省、1991年6月28日付、医事第58号)
とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要があること

井尻さんは「首がポキポキ鳴る音自体は問題ないですが、首を何度も強くひねることは危険。脳梗塞などを起こす可能性があります」と忠告しました。

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取材協力:井尻慎一郎(いじり・しんいちろう) 1957年生まれ。1982年大阪医科大学卒業、1994年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。井尻整形外科院長。空海に憧れ、高野山大学大学院文学研究科修士課程密教学専攻(通信教育課程)に在籍中。小説も出版している。現在は診療しつつ、「ニュースタンダード整形外科の臨床」(中山書店、全11巻)で東京大学整形外科教授と慶応大学整形外科教授とともに総編集者を担い、1〜3巻の責任編集者も務めている。

取材:TBSテレビ デジタル編集部・影山遼