■エコノミストが提唱する円安対策とは


ーー物価高を円安が加速している形になっているわけだが、円安については対策が取りにくく、政府も対応できていない。熊野氏が考える円安対策の1つ目は「日銀のアナウンスメントの修正」だ。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:

欧米は軒並み物価対策を挙げ、欧州もアメリカも中央銀行が利上げしていますが、日本は全く金利をいじらない。もう少し言えば、世界中で9月は日本だけがマイナス金利を維持するような形になるので、日本の円で借りてアメリカのドルに投資することで投機筋が利ざやを稼ぐ。それが円安の圧力なのですが、日銀が動かないことによって円安が進む。私はついこの前の岸田総理と黒田総裁が会って何を話したか分かりませんが、会うだけで2円近く円高方向に行きますから、日銀がマイナス金利をゼロにする可能性があるとちょっと示唆するだけで、為替は円安の是正に動くと思うのですが、首相がそれを説得することができない。ここは少しムズムズしますね。


ーー2つ目の「海外子会社の内部留保の還流を促進する」とはどういうことか。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:

為替を円安から円高に持っていく方法は今年の2月に成功例があって、ロシアは急激なルーブルの下落を止めたのです。どうやったかというとロシア企業が持っているドルを3営業日でルーブルに替えろと命令したので、ルーブルは1回3割ぐらい下がって元に戻った。日本はそんなことはできませんが、日本企業が持っている海外の資産はドル建ての内部留保がほとんどだと思うのですが、37、38兆円ぐらいあるので、このドルを円に替えたら税制優遇すると。為替差益に課税しない、あるいはこれを設備投資や研究開発、人件費の上昇に使うと税制の優遇措置が受けられるようにする。そうすると円安が円高になる。さらに国内の景気刺激。10兆円ぐらい設備投資に回るとGDPがすごく上がります。2005年にブッシュ政権が実際にこの政策をやって、海外の内部留保の3分の1が戻ってきたという経験があります。トランプ氏も同じような政策をやりました。実例がある政策です。


ーーもう1つ、「外貨準備の活用」という案もある。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:

日本は世界で2番目に巨大な外貨準備があり、これを使うことはできるのではないかと。特に巨大な含み益を持っている。例えば2011年の震災直後に為替介入を14兆円くらいやっているのですが、この時のレートが1ドル70円から80円といまの半分です。政府が国際協力銀行などを通じて石油元売り、電力会社にドルを貸し付け、返す時は1ドル70円とか80円で返せば補助金になるわけです。これは価格を下げるということで国民あるいは中小企業に還元されるわけですから、時限的にそれをやると痛みもかなり軽減されると思います。

(BS-TBS『Bizスクエア』9月10日放送より)