“3人目”の説明者がいない記者会見、誰が防災対応の情報発信を担うのか
松本大学総合経営学部教授の入江さやか氏は、かつて読売新聞とNHKに在籍し災害報道に携わった立場から、「臨時情報(巨大地震注意)」が発表された際、防災対応に関する情報やメッセージ等を政府のどこが、誰が担うのかが不明瞭だった点を問題視した。
「臨時情報(巨大地震注意)」が8日午後7時15分に発表された後、気象庁が午後7時45分に行った記者会見には、地震火山部地震火山技術・調査課の束田進也課長と南海トラフ地震検討会会長の平田直氏の2人が説明者として出席した。役割分担としては、束田課長が地震活動の観測や監視を行う気象庁の立場から技術的な解説を、平田氏が地震の専門家の立場から「臨時情報(巨大地震注意)」と評価した科学的根拠や理由、評価検討会での議論の内容等について説明を行うことになっていた。2人の出席者を見て、入江氏はとても驚いたという。
入江さやか・松本大学総合経営学部教授
「本来であれば、防災行政の担い手、例えば内閣府防災の職員がいるべきだ、いるはずだと思っていました」

“その質問”に地震学者が答える理不尽
実は「日頃からの地震への備えの再確認」などという防災対応の呼びかけは、気象庁の所管ではなく内閣府防災が行う手筈になっている。ところが、会見に内閣府防災の職員の姿はなく、入江氏の抱いた違和感はその後の質疑応答で表面化する。
お盆休みの時期を目前に控えていたことから、記者から「帰省は控えたほうがいいのか」との質問が出た。仕方なく平田氏が「個人的な考え」と前置きした上で、津波警報が発表された場合にどこへどういうルートで避難するかなどを事前にきちんと確認していれば「夏休みで海水浴をしていただいても特に問題はないと思う」と発言した。こうしたやり取りが行われたことについて、入江氏は「平田会長が科学者であるにもかかわらず防災対応についての質問に答えざるを得ない状況になったことは非常に大きな問題だ」と指摘する。
入江さやか・松本大学総合経営学部教授
「なし崩し的に地震学者が防災対応の結果責任まで負わされることに対して非常に大きな懸念を抱いています。不確実性をはらむ科学的な評価を防災対応に実装するのであれば、評価の先にある情報発信と結果責任は行政が負うことを明確にすべきではないでしょうか」