■「差別と関係ないよと暮らす社会」に気づきを

2022年4月。ウトロに平和祈念館が開館した。苦難の歴史を歩んできたウトロだが、展示品には、住民たちの意向で笑顔の写真が多く採用された。

ーーこの写真は、鄭さんのお父さん?

在日2世 鄭佑炅さん

「そうです。父。南も北もなしに、みんなの面倒みていた」

ーー喜んでるんですかね?

「ここができたということはね」

会場にはウトロ地区の住民の人たちはもちろん、民団・総連・そして韓国大使館、地元宇治市の関係者も参列していた。そして何よりこの式典を支えているのが、多くの日本人ボランティアだ。最近、朝鮮半島や在日の人たちに対する非常にギスギスとした排他的な空気が流れる中、こういった種類の式典が行われること自体、非常に稀なことだといえる。

150人いるボランティアのほとんどが日本人だ。館長には、田川さんが就任した。

ーーこの祈念館とか、もうやめろとか、そういう直接的なあれはなかったですか?

ウトロ平和祈念館 田川明子館長

「なんか時々税金をそういうことに使うなって、でも違うんですよ。税金一銭もここには投入されていないんです。どこも不法占拠じゃないんですよね。それを一生懸命、みんなで解消したんですよ」

有本被告に対する判決が下されたのは8月30日。奇しくも放火事件からまる1年にあたる日だった。

2か月ぶりに目にする有本被告。伸び放題だった髪は短く刈られていた。

裁判長
「被告人を懲役4年に処する」

初犯だったが、検察の求刑通りの実刑判決が言い渡された。

裁判長
「世間の注目を集め、自分が思うような排外的な世論を喚起したいと考えた。在日韓国・朝鮮人という特定の出自をもつ人々に対する偏見や嫌悪感等に基づく、誠に独善的かつ身勝手なものであって、およそ汲むべき点はない」

有本被告はほとんど無表情・無反応のまま判決を聞いていた。

判決のあと、ウトロ地区に田川さんを訪ねた。

40年近くウトロを見守ってきた田川さんは裁判結果を評価しながらも、社会全体にメッセージが届くか気がかりなようだった。

ウトロ平和祈念館 田川明子館長
「差別にもとづいた犯罪っていうのはとてもひどいことで、決して社会的に許しちゃいけないことなんだよっていうことが判例の中に、私はもう少し盛り込まれてもよかったかなって思うんですよね。そうするとたぶん、日本社会もハッとなるとおもうんですよ。差別と関係ないよって言って暮らしている社会だから」

開館から4か月あまりが経った平和祈念館。来場者は5千人を突破した。訪れた人が正面の窓越しにまず目にするのがあの焼肉交流会で踊る人々の大きな写真。

ウトロ平和祈念館 田川明子館長
「この輪の中にどうぞはいってくださいっていうふうに多分この写真が呼び掛けているんじゃないかなと」

コロナで中断されてきた焼肉交流会はこの秋、再開されるかもしれません。

放火現場には、韓国料理に欠かせない唐辛子と荏胡麻が植えられていました。焼け跡ばかり見ているとうんざりすると住民が植えたものです。

“焼肉交流会が復活したら、これをみんなで食べよう”

そんな話で盛り上がっています。

(報道特集 9月10日放送)
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