強い9月雇用統計を受け、市場の見方は変化した

10月4日に公表された9月雇用統計が強めの結果となったことで、米経済に対する市場の見方が再び強気化している。FRBは9月FOMCで50bpの利下げを実施したが、もはや追加的に50bpの利下げをする必要はないだろう。当レポートでは、FRBの今後の政策見通しと市場動向について、筆者の考えをQ&A方式でまとめた。

なぜ市場やFRBはリセッションを心配したか?~センチメント悪化の不安で見切り発車

22年以降の大幅な利上げによってリセッションへの懸念が強くなった。リセッション懸念そのものであるセンチメントは悪化し、ISM指数は大幅に低下した。「景気の『気』は気分の『気』」といわれるように、センチメントが悪化すれば自己実現的にリセッションに至ると心配することは自然なことである。とはいえ、「気」の次のフェーズであるGDPなど実体経済の数字が悪化しない状態が続いた。リセッションを予想する向きのストレスは蓄積し、リセッションを待ち望んでいる様子も窺えた。そういった中で生じたのが夏場の雇用統計の悪化である。8月2日に公表された7月の雇用統計が弱い結果となったことで、サーム・ルールの抵触も相まってリセッション派がガッツポーズをすることになった。もっとも、冷静に考えると、失業率は景気に対して比較的遅行しやすい。個人消費や設備投資など需要が減少するからこそ企業は余剰な供給能力を削減する必要があり、結果的に失業率が悪化すると考えるのが普通である。7月雇用統計の結果について筆者は「ハリケーンの影響を割り引いてみるべきだが、市場にその余裕はなかった」とレポートに記したが、やはり見切り発車だった可能性が高い。

なお、今回は大幅利上げによって景気の「気」が悪化したのにリセッションに至っていない背景については、金融市場の強さがあるだろう。通常は景気の「気」が悪化すれば金融市場で信用収縮が生じ、株価や社債などリスク資産が下落することが予想される。資産価格が下がらなければ、企業の資金調達環境も悪化せず、家計(特に富裕層)が逆資産効果で消費を抑制する必要もないため、景気はいつまでたっても悪化しない。おそらく過去の金融緩和の蓄積(巨大なFRBのバランスシートや、株価が下がったらFRBが救ってくれるという期待〈モラルハザード〉)が金融市場を支えていると考えられ、①FRBが救ってくれないかもしれない、②FRBでも救うことが出来ないかもしれない、という事象が発生しない限りは、この状態が続くと、筆者はみている。

米経済はノーランディングに向かうのか?~潜在成長率程度まで成長率は鈍化へ
米経済がリセッションに陥る可能性は低いとみられるが、成長率が加速する理由もあまりない。市場では常に「構造変化」を指摘する向きがいるが、基本的にはコロナ前の経済に戻っていく動きが続くだろう。昨年来の緩やかな失業率の悪化についても、コロナ禍およびコロナ後のペントアップ需要に応じた人手不足状態の反動によるものと考えられ、通常の経済に戻っている証左と言える。米経済の潜在成長率は1%台後半とみられ、足元の成長率が2%台となっていることを考慮すると、やや減速していくイメージだろう。絵に描いたようなソフトランディングのパスになると、筆者は予想している。