「兵が足りないロシアは犯罪者を入隊させ前線に送り込んでいる」
「南部戦線ではロシア兵が毎日300人死んでいる」
「弾薬不足でロシアは北朝鮮から弾薬を買うことになった」
「占拠した州のロシア編入の住民投票が延期された」

ロシアの劣勢が日々報道される、一方で戦況は東部でも南部でも膠着状態が続いていると聞く。ウクライナがこの戦争に勝つためには、果たして何が必要なのか、議論した。

■「ロシアの本当の狙いは戦争を冬まで持たせること。エネルギーを武器にするためだ」

アメリカでは元政府高官や元軍幹部らがウクライナ支援に関して政治専門サイトに寄稿している。ある人は“バイデン政権の支援は不十分だ”と唱え、またある人は“勝利のために全力を尽くす時が来た”と訴える。番組では、キーマンとされる2人から直接話を聞いた。

元駐ウクライナ アメリカ大使 ジョン・ハーブスト氏
「バイデン政権の政策は大規模な支援という点では妥当ですが、兵器システムの質と提供するスピードが伴っていない。バイデン政権はロシアによる“核のエスカレーション”を恐れている。プーチンは核のブラフでアメリカが重要な利益を守れないようにしている。結局バイデン政権は臆病で正しい決断ができないでいる…」

元NATO欧連合軍最高司令官 フィリップ・ブリードラブ氏
「ロシアが実際に核兵器を使うとは思わない。プーチン氏は何度も核使用を宣言してきたが、それは西側諸国の指導者を抑え、怖がらせるためだ。
(中略)アメリカはもっと積極的に優れた軍事システムを提供すべきだ。NATO軍が参戦していたら使ったであろう重要な兵器は、殆どまだ提供していない。その1つが空軍力だ。3月キーウ北部で何千台ものロシアの軍事車両が泥にはまって停滞していたが、空軍力があればすべて破壊できたでしょう。(中略)それから防空能力と対地攻撃能力も必要です。地上部隊に大砲、誘導砲弾、長距離砲を供給する必要があります」

海での戦いについては経験が乏しいウクライナに、短期間で海軍を作り上げることは不可能なので、艦隊よりもミサイルを提供した。限定的なミサイルだけを提供してきたが。ロシアの巡洋艦『モスクワ』を撃沈するなど効果は大きかった。長距離精密ミサイルを提供できたら、どれほどの効果が出ただろうか想像してほしいと語った。
そして彼は言う、「今提供しないとプーチンの罠にハマる」と。


元NATO欧連合軍最高司令官 フィリップ・ブリードラブ氏
「ロシアは苦戦している。それをわかっているので“戦争の長期化”という言葉で西側を怖がらせている。ロシアの本当の狙いは戦争を冬まで持たせること。エネルギーを武器にするためだ」

現時点で既にロシアの天然ガス、石油は西側にとっては“武器”になっている。これがヨーロッパの厳しい冬になれば脅威となるだろう。
だから早期に強力な武器をウクライナに提供して、膠着状態からウクライナ優勢に持っていき有利な立場で和平に持ち込みたい。そのために必要な武器が具体的に挙げられた。

■「今提供されている軍事援助はウクライナが“負けない程度”のもの」

西側が、ウクライナを勝たせるために提供するべき武器を列挙した。

長距離攻撃能力として現在16基供与している▼多連装ロケットシステム『ハイマース』も80~100基必要だというが、実はもっと提供すべきミサイルがあるという。
現在のハイマースにセットしているミサイルは射程距離が80キロだが、▼『ATACMS(エイタクムス)』というミサイルは『ハイマース』で発射可能で射程距離は300キロに及ぶ。

防空能力として、▼対空ミサイルシステム『ナサムズ』。これはホワイトハウス周辺の防空に配備されている。170キロ離れた目標を撃ち落とせるという。

対地攻撃能力としては、▼旧ソ連製の戦闘機『ミグ29』や先日番組でも紹介したリュックに入る▼謎の無人新兵器『フェニックス・ゴースト』など。

陸軍の強化として、まだ提供していない新型の砲撃車両が色々あるという。こうした具体的装備を列挙した上で、軍事に詳しい専門家の話を聞いた。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「正しい選択です。今提供されている軍事援助って、ウクライナが負けない程度のもの。勝ち始めるためには個別の名称は別として概ね、こういうものが必要ということはみんなわかってる。では、なぜ提供しないのというと何度も言っていますが、これで本当にロシアが負け始めた時、プーチンは核を使うんじゃないのっていう恐れですよね。でも、ヘルソンやザポリージャで撃退されたからって、自国の領土を攻撃されたわけでもないのに、本当に核使えるんですかっていう話ですよ…(中略)最後はプーチンの判断なので多少不安はありますが、私も積極的供与には賛成です」

防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「核使用は“脅し”だよねっていうのは重要な前提として、ポイントは空軍力の部分だと思います。(そこにはミグとか無人機が挙がっているが)ブリードラブさんは何て言っているかというと、“もう西側の航空機が来るべきだ”と。端的に言えば『F-16』ですね。『F-16』を大量に送って対地支援を本格的にするということが彼の言いたいこと、空軍の人ですからね。 これについては早めに考えるべきだと私も思う。(中略)そのくらいしないと状況は変わらないと思う」

ただ西側の戦闘機を扱えるようになるには数か月の訓練が必要だという。冬を持ちこたえ、春に攻撃するためにはそろそろ決断が必要だと高橋氏は言う。
ただこの戦争は簡単には終わらないため、訓練時間はたっぷりあると小泉氏は付け加えた。