太平洋戦争の終結を知らされないままグアム島に潜伏し、1972年1月に発見され翌2月に帰国した元・日本兵の横井庄一さん。
伝説の残留日本兵だが、そのジャングル生活の様子や戦争についてどう考えていたのかを帰国後に傍で見聞きし、平和の尊さを常々語ってきたのが妻・美保子さん(享年94)だ。

2022年9月3日(土)午後3時から「横井美保子さんをしのぶ会」が名古屋市中区のホテルの一室で始まった。呼びかけ人は、甥の幡新大実さん(大阪市・55)ら。
ことし5月に亡くなった美保子さんの晩年、身の回りのことをサポートしてきた幡新さん。コロナ禍の2020年からは、美保子さんは京都市の幡新さんの実家に身を寄せていた。

美保子さんは、名古屋の自宅を2006年に一部改装し、以来、「横井庄一記念館」館長として毎週日曜日に無料開放してきたが、記念館はこの9月3日をもって正式に閉館することが幡新さんから伝えられた。
記念館では、これまで美保子さんから直接グアム島の戦争の悲惨さや、横井さんの思いを聞いた方々は数多く…。この閉館の知らせには時の流れ、あるいは虚しさを感じていることかと想像する。
■名古屋に集合…横井夫婦と共に生きた人たちが語る

名古屋市内のホテルの一室に集まったのは、横井さん帰国時に取材にあたった元新聞記者、横井さんのグアムでの生活道具などを保管している名古屋市博物館の元学芸員の男性、また美保子さんと旅行したり、絵本作りをともにすすめた女性ら。
遠方の方はリモートで参加し、30人ほどが故人をしのんだ。

参加者から披露されたエピソードには、ジャングルで横井さんが着ていた服が放つ匂いのきつさは独特だったということも。
帰国後に様々な会場で横井さんのジャングルで使った手作りの生活道具を展示するイベントが催されたが、その「匂い対策」は大変で、ジャングルの穴の中でガマの油を燃料としていて潜伏生活していた過酷さが、そのしみついた匂いからは感じ取れたという話だった。

手作りした服などが放つ匂いについては、筆者のこの2年ほどの取材では美保子さんからは聞いたことがなかった。ただ、「私も入って見た穴はとうてい人間が住めるようなものではなかったです」と語っていた。
改めて28年に及んだ横井さんのジャングルでの時間を考えると、知力と体力を備えた超人だったと言わざるをえない。