高校生の時、名作ビデオとの出会い

——牧野さんご自身は、『毒恋』という切り口で、実際に毒が回ったように脳がしびれて抗えないほど「好き」に支配されたようなエピソードはありますか?

自分が映像を作ろうと思ったきっかけが、まさにそれだと思っています。高校生の時に、自宅のビデオラックに世界の名作ビデオがすごくたくさん置いてあったのを何となく見ていて、その時に「見たことないものを見てしまった」みたいな感覚があったんです。それで映像をやりたくなりました。なので、大学の映画サークルでは書く専門ではなく、自主制作映画を撮っていました。その中で、現場で監督や編集も撮影も全部やらなきゃいけなくて、頭の中で出来ている映像を実体化するのが面倒くさくなってきてしまって(笑)。それで大学3、4年生の頃に、宮藤官九郎さんの『木更津キャッツアイ』や『GO』を見たのをきっかけに初めて脚本家という職業を意識して、「こっちの道に進もう」となりました。

——今後も執筆を続ける上で、ご自身の核となるような、ここだけは譲れないと思われていることはありますか?

基本は、エンターテインメントであることを忘れないように。前述の「世界の名作ビデオ」はメッセージ性や芸術性が高いものも多かったのですが、自分でそれを書こうとは思わないです。エンターテインメント性で言うと、今回の小説では、志波の頑なな、氷のように冷たい弁護士像が段々崩れていくところを描きたいと編集者には伝えていて。上巻では志波がハルトによってどんどん変わっていく様子を描いて、下巻では恋人になった2人が悪に立ち向かっていく様子を書きました。「BL」というイメージが最初に来ると、身構えてしまう方もいらっしゃるかもしれないですが、誰もが楽しめるエンターテインメントとして、2人の男たちの、ラブストーリーであり、人間愛であり、男たちが仲良くなって一緒に活躍していく話だと思って、見ていただけるといいかなと思います。