「世の中の最小単位はバイブレーションだ」
トークショーでは石井監督の映画論がさく裂して、面白かったです。

石井監督:世の中の根源的なもの、最小単位は、モノじゃなくて波動=バイブレーションだと思っているんです。音楽と非常に親和性が高い。楽器を鳴らすとか歌を歌うとかではなくて、例えば「詩を紡いで小説にする、音楽」。僕らの心の奥とか、使っていない意識とかに侵入してくるバイブレーション……すごく感じるんですね。
世界の最小の単位は物質ではなくて、波動、バイブレーションだというのです。聞いたことがない言葉で、「…すごい」と思ってしまいました。バイブレーションというのが具体的によく分からなかったのですが、自分の映画で以前に採用した博多祇園山笠のカットを例に挙げました。
石井監督:自分では経験ないんだけども、ある経験を起こさせる強いバイブレーションを持っていれば。(映画の中の)山笠は、実像じゃなくて、フォーカスを外して色彩の”にじみ”だけで動いている。逃げ水の中の山笠。それがまさにバイブレーション。その時は、自分で「何でこれを撮りたいのか」「これが必要だったのか」、分からなかったんですよ。
石井監督:その後にインドネシアを旅した時、バリ島で感じたバイブレーションが、山笠をフォーカスアウトにした色彩と全く一緒でした。全ての表現の奥にはそういうバイブレーションがあって、それが受け取る人の心を揺さぶるんだ、と。
僕らもニュースやドキュメンタリーを作ったり、アナウンスで「人の心に届け」と言葉を届けたりしているわけですが、「全ての表現の奥にはバイブレーションがある」。そうだろうなと思いました。
原作の小説と合わせて堪能を

このトークショーの翌日、映画を見に行きました。さすが、インディーズの鬼才と言われるだけに、石井監督の映像は美しい。ただ、1回観ただけでは脳の理解が追いつかないほど情報量がすごくて……パンクした感じでしたね。

私は原作を読んでいなかったので、映画の後に読みました。「あ、これはこういうことだったのか」「これは本のこのシーンだ」と思うことがいっぱいありました。石井監督は、「原作に忠実に映画化した」と話していました。
原作を読んだ人がたまたまトークショーに来ていて、映画を見たら「あ、あのシーンだ!と笑えてしまった」と。笑えたのか、とびっくりしました。
ダンボールを着た浅野さんたちが走ったり、バトルしたりするんですよ。かなりコミカルで、映像的に「おおおー」と思うところはいっぱいありました。原作を読んでみて重なるところがあったので、もう1回観に行ってみようか、と思っています。
この映画は、ちょっと中毒性がありますね。1回で全部理解できる人は、多分いないと思います。「これは何なんだろう?」ともっと気になって……。原作とセットで楽しむことをおすすめします。
※映画の写真は下記より提供。
『箱男』全国公開中
(c)2024 The Box Man Film Partners
配給:ハピネットファントム・スタジオ
※安部公房氏の写真は新潮社の提供。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材に、ラジオ『SCRATCH差別と平成』(2019年)、テレビ『イントレランスの時代』(2020年)・『リリアンの揺りかご』(2024年)を制作した。