「男の子が生まれた」東京パラで自己ベスト更新

取材から2か月、イギリスが新型コロナの最初のピークを迎えていたころの2020年4月に、モニカはWhatsAppで「男の子が生まれた」と伝えてきた。母子ともに健康そうだ。良かった。5月には写真や動画も送られてきた。

Saviour=救世主と名付けられたその子は、動画の中ですやすや寝ていた。肌の色は黒い。母親がアルビノだ、と指をさされることもあるかもしれないが、モニカは全力でこの子を守るはず。ミリアムがモニカを全力で守ってきたように。

7月にはタイヤを引っ張りながら走るモニカの動画も送られてきた。有言実行、早速トレーニングを再開していたのだ。東京パラリンピックの延期は多くの人をがっかりさせたかもしれないが、モニカにとってはプラスに働いた。

そして2021年8月、モニカはザンビア唯一の選手として、東京パラリンピックの開会式に国旗を持って登場した。競技では予選落ちこそしたものの、雨の中、自己ベストを更新した。「おめでとう!胸を張れる結果ですね!」とメッセージを送ると「まさにその通り」と返ってきた。

今回のパリパラリンピック。二大会連続でザンビア代表となったモニカは8月中旬、「8月23日にはパリに入ります」「息子はお留守番。母が面倒見る予定です」とメッセージで伝えてきた。しかし28日の開会式にザンビア選手団の姿は無かった。

国際パラリンピック委員会は29日の会見で「ザンビア選手団はまだ誰も来ていない。連絡もなかった」と説明、ただ「競技には参加するとの確約は得た」と述べた。モニカは5日に予選を走るはず。メッセージを送ったが、これを書いている時点でまだ返信はない。

少し心配ではある。でも取り越し苦労の気もする。

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2020年のザンビア取材では、アルビノ襲撃事件の実態をさらに知るため、
モニカの他にもアルビノの人たちに話を聞いた。

そのうちの1人は、生きたまま片腕を切断されていた。
<敬称略>
後編に続く