ありそうでなかったがある理想の働き方

西園寺さんが働く「レスQ」社の職場環境も、「現実の世界もこうだったら良いのに!」という意見が多分に取り入れられている。例えば、第1話で西園寺さんが社長賞をもらい、その賞金をみんなに分けるというエピソードも、博報堂キャリジョ研プラスから出たアイデアの1つだ。
岩崎プロデューサーは、当初このエピソードについて「賞金は、ルカちゃんが家に来たときのデリバリー代にしようと思っていたんです」と振り返る。だが、この意見を聞き「確かに西園寺さんだったら全員の功績だからとみんなに分配しそうだ!」と方向転換したのだとか。
また、「レスQ」社の社内における風通しの良さについて、小島氏は「家庭の事情などをオープンに共有できるあの職場環境、あれが現実のものになったらすごく良いのになって思いました」と語る。

博報堂キャリジョ研プラスの調査でも、働き方や職場環境について共働きが増えてもなお、ジェンダー役割分担意識が残るという結果が出ている。だが、それは男女間だけの話ではないという。物語でも楠見が保育園のお迎えで、定時退社するシーンが描かれ、それを同僚たちが当然のように見送るというシーンが描かれている。
だが、定時退社したいという希望は、子どもを抱えている社員だけの話に限ったことではない。結婚や育児に加え、家族の介護をしながら働く人もいるし、独身だってプライベートの時間を確保したい。「結婚してライフスタイルが変わり、一度定時で退社し夕食の準備をして、また仕事に戻るといった工夫をしたいと思う反面、私的なタイムマネジメントを共有するのは迷惑になるかもしれない」と悩んでいた経験を持つ小島氏。だからこそ、現実世界でも「レスQ」社のようにオープンに話せる職場環境が増えることを願っているという。

「西園寺さんの世界では、理解のない人を登場させて対立関係から生まれるものを描くのではなく、理解ある登場人物たちに溢れた“優しい世界”を描いている」と語るのは、瀧川氏。人間関係が希薄ともいわれる昨今、『西園寺さんは家事をしない』ではエンタメ要素を残しつつも、身近に感じることのできる世界線を描くことで、多くの共感を得ているのではないだろうか。