普通に世界の中で戦うメンタルに

東京五輪翌年(22年)7月の世界陸上オレゴンは、惜しくも決勝進出を逃したが、ダイヤモンドリーグ(以下DL。単日開催の陸上競技会では世界最高レベルのシリーズ)の常連として活躍してきた。8月のDLローザンヌ、9月のDLチューリッヒともに4位という好成績を残した。そして昨年6月のDLパリ大会で8分09秒91と日本記録を0.01秒更新。世界記録を出したギルマには及ばなかったが、後半で順位を上げて2位でフィニッシュした。

「東京五輪は怖いもの知らずで出て入賞し、タイムも勢いで出た8分09秒でした。DLパリの日本記録更新は0.01秒でしたが、シーズン序盤の良くなかった走りから修正をして、持ち直して出すことができました。0.01秒でしたが厚みが増したと感じられましたね」

世界記録ペースのギルマは先行させ、自分が最大限に力を発揮できるペースで走り、終盤で減速した選手たちを抜いて2位を確保した。

昨年8月の世界陸上ブダペストでは6位と、東京五輪の順位を1つ上回った。

「東京五輪よりも1つ順位をステップアップすることができ、嬉しいというのが率直な気持ちですが、もうちょっと行けたんじゃないかな、という思いもあります」

9月にユージーンで行われたDLファイナルでは5位。完全に世界トップクラスの仲間入りを果たした。

前述のように今季の情勢は、三浦といえども入賞を逃す可能性もある。エル バカリとギルマに勝つとは言えない状況で、三浦も今年6月末の取材で「2人が抜けている」と話していた。

「しかし、2人以外の勢力図は変わっていないと思うので、レース展開で大どんでん返しもあるのかな、と思います」

ニューフェイスの台頭を認識していないわけではない。今季世界3位の8分02秒36を出しているA.セレム(22、ケニア)とは、DL転戦中に何度か会話をするようになっている。

「最近よく声をかけてくれます。近いところで競い合っている仲ですし、同じところを目指していますから、お互いに刺激になっているんじゃないかと思っています」

三浦は自然と、世界トップのグループで戦う意識になっている。選手層がどうなっているか、冷静に分析する発想自体がない。6月にはこうも話していた。

「(他の選手が調子を上げているとか)そういったところに正直、アンテナは張っていません。(自身も含め)それぞれが個人に集中していることだと思います」

特に構えるのでなく、自然に世界と戦うメンタルになっている。そこが世界と戦う上での三浦の大きな武器なのだ。世界の選手層がどんなに厚くなっていても、三浦は普通にメダル争いに加わっていく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)