ウクライナ戦争が始まって半年。戦況に大きな変化が見えてきた。8月に入ってクリミア半島のロシア軍の拠点が次々と破壊されているのだ。2014年ロシアが一方的に併合を宣言して以来、クリミアは事実上ロシアの領土と見られてきた。即ちクリミアへの攻撃は、ロシア領土への攻撃となる。果たしてこの破壊は、ウクライナ軍によるものなのか?番組では、ウクライナの現役幹部、ゼレンスキー大統領の側近中の側近にインタビューを試みた。

■「ハイマースが戦場の状況を極端に変えた」

私たちが直接話を聞いたのは、ゼレンスキー政権の軍事部門の要人、アレストビッチ大統領府長官顧問だ。彼は冒頭、私たちが知らなかった戦場の凄まじい現実を語った。

アレストビッチ大統領府長官顧問
「3か月間ロシアの大砲に撃たれ続けた。毎日4万5千から6万発の砲弾が撃ち込まれ、私たちは全く無抵抗だった。『連日、塹壕で15時間撃たれ続けた。とてもきつい』兵士は言っていた。(だが、ある兵器が供給されて状況が変わった。)最強なのはハイマース(高軌道ロケット砲システム)。ハイマースが16台。イギリス、ドイツ、ノルウエーからのM270(多連装ロケットシステム)が9台。これらが戦場での状況を極端に変えた

わずか25台のロケット砲が供給されただけて、ウクライナはロシアと互角に打ち合えるようになった。弾薬庫を中心にピンポイントで攻撃したことで毎日4万5千から6万発撃ち込まれていた砲弾が、1万5千発に減ったという。砲撃の数ではいまだにロシアが3倍以上だが、高性能の兵器によって十分なパリティ(戦力の均衡)だという。さらにアレストビッチ大統領府長官顧問はハイマースなどのロケットシステムが50機になれば、ウクライナ軍が“前進できる”と私たちに答えている。

防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「もっと欲しいと言っているが、だとすると(ロシア軍の)ターゲットがもっと見えていると聞こえるんです。ロシア軍の後方についての情報もかなり持っていると推測できる。(攻撃もさることながら)難しいのは、弾薬庫ってそう簡単に見つからないはずなんです。それを正確に見つけて、すぐにハイマース側に情報を伝えるインフラがある。アメリカが宇宙から見てるのか、ドローンの情報なのか…」

情報のインフラは明かされないだろうが、ハイマースが前線のゲームチェンジャーになったことは間違いないようだ。しかし現在大きな関心事は、“ロシア領”とロシア側が主張するクリミアで爆発が続いていることだ。

■「これはクリミア解放の始まりです」

メドベージェフ前大統領はクリミアへの攻撃について、ウクライナに終末の日が訪れると警告し、核使用を匂わせた。アメリカもロシア領への攻撃は良しとせず、ロシア領に届く武器は提供していない。ところが、8月にクリミア半島で謎の爆発が相次いでいる。空軍基地、弾薬庫、変電所・・・。当初、ウクライナ軍も攻撃を表明せず、ロシア側は事故だと報告していた。


ところが、私たちがアレストビッチ大統領府長官顧問にインタビューする2時間前、クリミア半島の黒海艦隊司令部が攻撃され、そのことを質問すると驚きの事実が判明した。

アレストビッチ大統領府長官顧問
「たった今、クリミア半島のセバストポリにある黒海艦隊司令部に無人機の攻撃がありました。これはクリミア解放の始まりです。(中略)そこにはっきりと撮影された無人機が見えるのですが、どのようなタイプなのかは控えさせてもらいます。大事なことは、艦隊司令部に攻撃ができたこと。これはとてもいいことです」

これはクリミア半島への攻撃がウクライナによるものであることを政権の中枢が認めたことに他ならない。さらに彼は続けた。

アレストビッチ大統領府長官顧問
「私たちはクリミアの飛行場に対し積極的に着手し始めました。(中略)結果、ロシア軍は、クリミアからロシア本土に航空機を移し始めています。まさに目標通り。クリミアはウクライナの領土であり、1平米も譲れません。他の土地と同じように開放に努力します」

このインタビューを受けて東大先端研の小泉悠氏はいう・・・

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「率直に言って驚きました。内務省の元顧問みたいな人が“実はやったよ”的に言うことはありましたが、現役の大統領のブレーンがこういうことを言ったのはおそらく初めて。(中略)」

Q.なぜ隠さなくなったのか?

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師

「メドベージェフはクリミア攻撃の報復は速く、厳しく、避けがたくやると言っていたのですが、最初の空軍基地爆発から2週間たっていますが、まだ何もやっていない。つまり報復といっても考えうるひどいことを全部既にやっている。人口密集地に爆弾を撃ち込んだり、病院や子供狙ったり・・・、あとは核くらいしか考えられない。でもそんなに簡単に核使えますか?」

ロシアが報復できないだろうという読みだけでなく、クリミア攻撃の裏には西側諸国のスタンスも変わってきたこともあるようだ。
ウクライナ外交部門の大統領側近にも番組で独自にインタビューした。

ポドリャク大統領顧問
「この2週間で西側の考え方が根本的に変わりました。アメリカもです。クリミアはヘルソン州・ザポリージャ州・ハルキウ州・ドネツク州・ルハンシク州と同じように占領されたウクライナの領土だという考え方になりました。(中略)占領された地域で活動しているウクライナの特殊部隊が効率よく作戦を行っています。クリミアのタタール人などの中では反ロシアの感情が高まり、すでにゲリラ戦を始めています。これからはクリミアでも軍事行動が増えることになります」

このインタビューでウクライナの特殊部隊がクリミア各地で破壊工作を始めていることも明かされた。さらにそこには、いまだ正体不明の新兵器も投入されている。