文字が持つ「想像」性 人の心の中に描く物語

——今回ドラマを見て初めて先生の本を手に取られる方もいらっしゃると思います。

私の作品は、全部つながっているとはいうものの、作品ごとに単体で楽しめるように書いています。「そこが起点になって実はつながっている」ということが分かると、そこから読んでも全部につながっていけるというようなピースを心がけて書いています。だから何の含みもなくこの作品を読んでいただければ、楽しんでいただけると僕は考えています。

——映像とは異なる活字の強みはどのようなところだと思われますか?

オーストラリアでの天城のオペの場面は、素晴らしいものを作ってくださいました。あれは関わる人が100人規模を超えていると思います。計画を立てたり、その枝葉をつくったり、手術室の細部を再現したりとか。あの、海の見えるオペ室は本当に感動しました。あれは小説の一場面として書いたのですが、実際に映像として見せられると感無量でした。ドラマ制作には相当なお金もかかり、伊與田さんはそれを作るために大変なご苦労をなさっている。だけど、文字にすると、天城の手術場面も、「メスが一閃した」とするだけで済むんですよ。でも場面を人の心の中に描くということが、活字の強みだと思うんです。ある部分では映像を超えるけれども、映像の強さには太刀打ちできないところもある。その文字の省略性と「想像」性。読者に委ねつつその想像性を生かして、全く違うものを作っていく。それが映像とは異なる表現法である、文学の可能性を追求するということじゃないのかなと思います。そして全く違う表現法である映像は、文学にとっても大変刺激的です。自分の作品が映像化されるというのは、そうした機会を与えていただくことであり、今回の「ブラックペアン シーズン2」のように素晴らしい作品と接することができるのは、作者として本当に喜びです。伊與田プロデューサー、二宮さんをはじめとした俳優のみなさん、脚本を限界まで磨き上げてくださっている脚本家の方々、素晴らしい映像を作り上げるために下支えで尽力してくださっているスタッフのみなさん、そうした方々のおかげです。本当にありがとうございます。