「報道しない」ルール、都民のためになっているのか?
小川キャスター:
今回の都知事選は過去最多の56人が立候補するという形になりましたが、ご自身の声が(有権者に)届いたかどうか実感はどうですか。

安野貴博さん:
56人いると見つけてもらうのはすごく難しいと思っています。
特に私の場合は、選挙期間中にテレビが1秒も取り上げなかったということもあります。選挙後の7月7日以降にテレビで取り上げていただき、見た人から「知っていれば、絶対に安野に入れたのに」という声をたくさんいただいていて、本当に悔しかったです。「報道しない」ルールが都民のためになっているのか?と私は思いました。
斎藤幸平さん:
100ページのマニフェストを読むとすごく良いんです。具体的な数字や提案も含まれていますし、テクノロジーの話もあるから若者たちも希望を持てるだろうと感じました。
マニフェストを読んで思い出したのは、台湾のオードリー・タンさんです。「ああいう人が出てこないのか」「日本はデジタル化が遅れてる」と言われていて、実際に出てきたら誰も取り上げないという状況は、本人からすれば悔しかっただろうと思います。

藤森祥平キャスター:
TBSとしては今回の都知事選で、主に4人の候補者を取り上げました。まずは現職の小池都知事、国会議員の蓮舫氏、直前まで広島県安芸高田市長を務めていた石丸氏、前回出馬した都知事選で60万票余りを取った得票実績などを考慮した田母神氏の4人です。
ニュース番組には時間的な制約もあるという中で総合的に合理的に考えて、選挙のたびに基準を設けて、今回はこういった形となりました。ただ、これは長年の課題でもあり、問題がなかったかといえば、検証や再検討しなければいけないことだと受け止めています。
小川キャスター:
今回、政治的な実績が考慮されましたが、既存の政治にないものが求められている時代にこの基準で十分だったのか、正解だったのかという検証をする必要があると私自身も感じています。
課題が浮き彫りとなった今、次の選挙までに選挙報道をアップデートしていこうという意思が有権者に伝わらないと、テレビの選挙報道が信頼を失っていのではないかと危惧を持ちます。
選挙報道はどう変えていく必要があると考えますか?
安野貴博さん:
伝える価値がある、ニュースバリューがあるものはぜひ伝えていただきたいと思っています。
例えば、今回小池さんが作った「AI百合子」をすごく取り上げていたと思いますが、私の「AI安野」の方が質問に答えるなど、技術的に高度な話もしているのでニュースバリューはあったと思います。
マニフェスト研究所が主な9人の候補のマニフェストを比較・検証したところ、私のマニフェストの方が小池氏より高い点ということもニュースバリューがあったのではないでしょうか。
一方で、売名目的の候補者の問題行動はテレビで取り上げられていました。真面目に政策に取り組む候補者を取り上げず、問題行動を取り上げるというのは、“逆”になってしまっているように感じます。

斎藤幸平さん:
“問題行動”を取り上げるが、強く批判もしていなかったように思います。
世界的なトレンドですが、「アテンションエコノミー」が日本では特に広がり、「目立てばいい」「相手を論破すればいい」という雰囲気が、政治不信がある中で、ますます民主主義への信頼を低めてしまいます。
そういうものがSNSやネットで蔓延してるからこそ、テレビでは質が高い議論を展開する必要があると思います。
選挙が終わってから特番を放送するのではなく選挙前に放送して、みんなが議論できるような場があれば、関心を持つのではないでしょうか。