小説のイメージを膨らませる取材。そのテクニックとは。
——本作の執筆に際してはどのぐらいの時間をかけて調べたという行程があったのでしょうか?
他の作品の執筆もしながらでしたが、『笑うマトリョーシカ』に関する取材だけで、半年は費やしました。代議士や代議士秘書、政治記者なども含めて50人近くに会っています。試写で櫻井さんにお会いした時に「ものすごく取材されていますよね。議員会館から見える景色なんて本当にそのままで」といった感想をいただきました。きちんと描写できていたなら良かったな、と手ごたえを感じています。
——50人に会うという、半年にわたる取材をつないだものは何だったのでしょうか?
人間の業を描くために、どこを舞台に描こうか、そう考えて選んだのが政治の世界でした。
政治という舞台にいる方たちが、「どういう生き物」なのかを、自分の目で見極めようという一心でした。今回は、質問に対する答えそのものを、小説に採用することが重要なのではなく、どんな風に答えるか。どんな目の動きをしていて、どう振る舞っているか。その様子を観察していたという感じです。
インタビューに関しては、僕は得意なほうだと思います。ある政治家の取材を1時間して終えたあとに、同行していた担当の編集者に「政治家の先生をメロメロにさせて、本音を聞き出せましたね」と言われたのですが、僕の捉え方としては真逆で、「最後まで向こうの手のひらの上にいさせられた」という感覚が拭えませんでした。政治の世界には、そういう方が多かったですね。
——対象者をメロメロにさせる早見さんの取材力、何かコツはあるのでしょうか?
今回、文庫化をするにあたって、当時の取材メモを見たのですが、 全ての人たちに対する質問の1行目に、「僕は何がタブーで、何がタブーじゃないかも分かってない。本当にバカな質問をするかもしれないので、その時は指摘してくれたら」という書き出しがありました。どれだけ「バカなフリ」をできるかどうか。賢い人たちは「自分より下」と思う人間にはよくしゃべってくれますから。でもやっぱり政治家という存在は、腹の内を見せてくれているようで、見せてくれていないような、すごいなと思わされる人が多かったですね。