「人生で直面した一番難解なパズル」
報告書をまとめた「防災気象情報に関する検討会」は学識者や報道関係者等によって構成され、筆者も委員として計8回の会合すべてに参加した。
検討会の開催趣旨は、シンプルでわかりやすい〈気象に関する防災情報〉の再構築に向け、情報全体の体系整理や個々の情報の抜本的な見直し、受け手側の立場に立った情報への改善などの検討事項を中心に議論を行うこと。この趣旨に委員の誰もが異論はないはずだった。
ところが、検討会は回を重ねるにつれて議論百出、その場で結論が出ないことが当たり前のようになった。議論は報告書を取りまとめる最終段階に至っても収束する兆しを感じさせず、特に以下のテーマについて、委員たちの意見は最後まで大きな隔たりを見せた。
・情報名は日本語が先か、「警戒レベル」が先か。
・「危険警報」(新しい情報名)を採用するか、しないか。
・大雨浸水に関する情報の冠は「大雨」か、「大雨浸水」か。
国が設置した検討会をこれまでたびたび取材してきたが、事務局がお膳立てしたシナリオどおりに進み、結論を出すものが少なくなかった。だが、この検討会はまったく様相が異なっていた。
意見が一向にまとまる気配のない様子を見て、矢守座長は「人生で直面したパズルの中でも一番難解なパズル」と評し、事務局の気象庁職員は会合が終わる度に頭を抱えていた。
