「有明海で生活がしたいだけ」開門調査を命じる判決も泥沼の裁判闘争に
有明海の異変は「イサカン」のせいだ。漁業者たちは、国に潮受け堤防の門を開けて調査をするよう求め、裁判にも訴えた。
一方、国は「干拓事業は海の異変とは因果関係がない」と主張し、徹底抗戦する。

2010年、福岡高裁で開門調査を命じる判決が出されると「イサカン」に否定的だった当時の民主党政権は上告せず、これが確定する。

すると今度は「農業に悪影響が出る」として、干拓地の営農者が国を相手に、門を開けないことを求める裁判を起こす。
2017年、長崎地裁が開門の差し止めを認める判決を出すと「イサカン」を推進してきた自民党政権は控訴せず、これが一審で確定する。これ以降、国は「門を開けない」という姿勢を明確にした。
農水大臣談話(2017年)
「国としては、開門によらない基金による和解を目指すことが本件の問題解決の最良の方策と考えます」
「イサカン」をめぐっては、さらにいくつもの裁判が起こされ、泥沼の裁判闘争が繰り広げられる。

平方宣清さん
「漁獲量が増えていたら、私たちは裁判なんかしません。今、本当に厳しい状況です。年を追うごとに、有明海が弱っている。漁獲量が減っている、漁業者が減っている。本当に国はデタラメです。私は本当にただ海で漁をしたいだけです。有明海で生活がしたいだけです」
2023年3月、最高裁が国の主張通りに「開門は不要」という姿勢を示すと、これが「司法の統一判断」であるという空気が広まる。

野村哲郎 農林水産大臣(当時)
「訴訟だけは、おやめいただきたいなと。国の支援でなんとか再生をしていただきたい」
漁業者側は、到底納得できない。

漁業者側弁護団
「本来司法というのは、行政に対するチェック機能をもたなければいけない。行政が(開門の)確定判決に従わない。これは日本の憲政史上初めての事態です。これをそのまま無批判に是認してしまうということがまかりとおるのであれば、司法に対する信頼は失われてしまいます」

佐賀・太良町のノリ漁師 大鋸武浩さん
「訴訟を乱立させるようにしたのは、農水省でしょう。ふざけんなと。お前らが開門調査をするチャンスが何度もあったのを握りつぶしたために乱立することになったのであって、開門調査をしなくても漁獲高が上がっていればいいですよ、何も文句はいいません、僕らは。ただ、全然あがってないですよ、水揚げ」
有明海はなぜ、豊かだったのか、そしてなぜ、豊かではなくなったのか。