多くの若者たちが、極秘の兵器を志願した…
訓練基地での一之さんを知る人物がいます。同じく富山県出身の谷道巌さん(94歳)です。一之さんから兄のように慕われていた元回天搭乗員です。
谷道さんは明治大学から学徒出陣で海軍に入りました。すでに航空機は不足していることから、海軍が募集していた秘密兵器の訓練を志願しました。基地に配属されてはじめて、人間魚雷「回天」そのものを目にします。

元回天搭乗員(元海軍少尉)谷道 巌さん:
「初めて回天を見たときは、こんな、むごい兵器に乗って死なないといけないのかと思ったね。そのときは、一度(自分の)親に見せたいと思ったくらいだった」

海軍は、兵士自らが犠牲になる人間魚雷「回天」の詳細を明らかにせず、“敵艦を一撃で沈没させる秘密兵器”として志願者を募りました。
飛行機は不足し、訓練もままならない予科練や学徒出陣の若者たち…。開発されたばかりの秘密兵器と聞いて、血気盛んな彼らが熱望します。または、当時の雰囲気として志望せざるを得なかったといいます。
元回天搭乗員(元海軍少尉)谷道 巌さん:「覚悟はしていたが、人間そんなに簡単に死ぬ気になれるものではないよね。本当は死ぬのは怖い…。だけど訓練を受けていくうちに、上官から、先輩たちが戦果を挙げていくのを聞くうちに。だんだんとね、死をなんとも感じなくなっていく…」
入隊こそ遅かったものの、同郷で年上の谷道さんと基地にやってくると、一之さんが兄のように慕ってきたといいます。話すことは、ふるさと富山でのこと…。

元回天搭乗員(元海軍少尉)谷道 巌さん:
「(予科練の)小森君は自分より先に訓練受けていたし、すでに軍人教育も受けていた。回天の搭乗技術もあったし、自信も持っていた。隊員たちを代表するような存在だった」
激しさを増す米軍の本土爆撃…。アメリカ軍が本土に侵攻すれば、親きょうだい、女性、子どもたち、残された日本人すべてが殺されるか、奴隷にされてしまう…。そうした恐怖が、やがて憎しみに変わり、純粋な若者たちは訓練に奮起したといいます。

元回天搭乗員(元海軍少尉)谷道 巌さん:
「一日も早く操縦をマスターして出撃したいと言っていた(Q:死ぬのがわかっているのに?)。そう、歓呼の声に送られて、隣近所、友人知人の見送りで行ったからにはね…早く戦果をあげたいと…出撃したいと、上官に願い出る兵隊が出てきた」

元回天搭乗員(元海軍少尉)谷道 巌さん:
「夜になるとね。故郷を思い出してね(話をした)。学生だし、ともに若かったし、気になっていた女の子の話も出てたよね…。でも、いざ訓練となると厳しかったね」