「死んだふり」をしたオスにメスを近づけてみると…

刺激を受けると独特な姿勢で動かなくなる「死んだふり」行動は、ほ乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、ダニ類、昆虫類などさまざまな分類群でみられる行動です。これまで「死んだふり」行動の意義と誘発する刺激については、よく研究されてきました。

たとえば、捕食者が襲う刺激や、外部から与えた人為的な刺激によって死んだふり行動をすることは明らかにされていました。しかし、ずっと死んだふりを続けているわけにもいきません。

【画像②】実験の様子

研究では、アリモドキゾウムシのオス、メスをピンセットで挟んで「死んだふり」を引き起こし、さまざまな個体と同居させることで、死んだふりから回復するまでの時間を調べました。

触覚を下げ、脚をのばして硬直し、死んだふりをしているオスと性成熟したメスを同居させたところ、オスは【図③】のように短時間で触覚をさかんに動かし、目を覚ましたといいます。有意に早く「死んだふり」から目覚めることが明らかになったのです。

【画像③】触覚を立てて反応するオス

反対に、オスは他のオスや性成熟していないメスと同居させた場合には、死んだふりから早く目覚めることはありませんでした。

死んだふりをしているメスの場合には、オスとは異なり、死んだふりからの目覚めは他のメスやオスの存在に影響をうけませんでした。

このことから、オスが特異的に性成熟したメスの存在を感じとり、死んだふりを短くしていることが明らかになりました。

また、オスはメスの個体ではなく性フェロモンが存在していても、死んだふりが有意に短くなったことから「メスの性フェロモンはオスの死んだふりを解除する重要な要素」であることが明らかになりました。

アリモドキゾウムシのオスは、危険をやり過ごすよりも繁殖相手との出会いを優先していることが示されました。