「(インドの)与党の国会議員にイスラム教徒が一人もいない」

長尾氏が“実績は悪くない”と評価していたモディ首相を日本にいるインド人はどう評価しているのだろう…。
東京在住のインド人の約3割が住む“リトルインディア”江戸川区西葛西で聞いた。

「モディ首相はインドにとって最高の指導者だ」(2か月前に来日)
「国を良い方向に導いている 殆どの場合インドにはよい変化がみられる」(2年前に来日)
「“メイク・イン・インディア”というブランドを持っていて(海外製品を)インドで作るブランドを始めた これでとても良い経済になりました」(10年前に来日)

江戸川インド人会 ジャグモハン・チャンドラニ会長
「(インド経済は)上がる。需要があって供給がある。人材がいる。世界中で働き手が少なくなるから作れるところに行くしかないの」

経済面での評価は高い。しかし、モディ首相によってインドが権威主義的な方向に進んでいることは間違いないと懸念する識者は少なくない。国際政治学が専門のナターシャ・コール教授は言う。

ウエストミンスター大学 ナターシャ・コール教授
「(インドは)ヒンドゥー教徒ばかりではない。でも与党の国会議員にイスラム教徒が一人もいないというのはどういうことか…。これは制度的にも政治家の使う言葉でも政策でも公的な行動のレベルでも…、今のインドの憎しみの常態化を物語っている(中略)モディ派は長年にわたってヒンドゥー教の草の根活動を行ってきた。インドは多様性の国で自信のアイデンティティをヒンドゥー教徒だとは認識していない人々もいるが、彼らにヒンドゥー教徒としてのアイデンティティを植え付けた。2014年(モディ政権誕生)以降、歴史修正主義的な現象を目の当たりにしており、インドが“ヒンドゥー国家”であるという考えが広がり、多くの問題が…」

モディ政権は反イスラム主義、ヒンドゥー国家思想を明確にしている。選挙演説でも「皆さんが苦労して得たお金が侵入者(イスラム教徒)の手に渡っていいのか?」と述べている。インドではヒンドゥー教が79.8%を占め、イスラム教は14.2%だ。

因みに人口が約14億人のインドでは14%と言っても2億人近い。にもかかわらず2019年にはイスラム教徒のみを除外する国籍法が成立。今年はイスラムのモスク跡にヒンドゥーの寺院を建設している。

そして、モディ首相の強権化は宗教面だけではない。野党の指導者を汚職にかかわったと逮捕するなど政敵への圧力…。モディ首相に批判的なドキュメンタリーを放送したBBCのインドオフィスに税務調査が入るなどの報道への圧力…。コール教授は言う。

ウエストミンスター大学 ナターシャ・コール教授
「習近平主席が中国を作り上げたようにモディ首相がインドを強い国、素晴らしい国にできるという言説が広まっている。…非常に恐ろしい」

一方で、モディ氏個人の人気は相変わらず高いと伊藤教授は言う。

防衛大学校 伊藤融 教授
「モディ首相は日本の政治家でいうと田中角栄と小泉純一郎を混ぜた感じ。苦学して地元の政治家から党首になった田中角栄のようなドラマが会って、小泉さんのような言葉遣いがうまい。若者のアンケートではモディが圧倒的に人気なんです。何が支持されているのかというと、その話術なんです」

初めて単独過半数が取れなかったモディ首相。果たしてこの後連立政権で強権の鎧を脱げるのだろうか。

(BS-TBS『報道1930』6月5日放送より)