やりに高さが出た5投目と6投目

DL蘇州、水戸招待(5月5日)と、北口は「体が思う通りに動いていない」と感じていた。シーズンに入ってもウエイトトレーニングを追い込んで行っていたことが原因と判断。「自分が動かしたい体で試合に臨みたい」と、GGPまでの2週間でコンディショニング重視のトレーニングを組んだ。北口のコンディショニングは主に、柔軟性を出すことを狙いとしている。

ゴールデングランプリの北口選手

「硬すぎると動きたくもなくなるので、練習もしたくないと思ってしまう。その点は他の人と違うと思います」

その結果、GGP当日には「やっと上半身も自分で扱える」ようになった。

「捻りを使ったり腕を振ったりしているときに、自分の体が板状に感じていたものが、今はちょっと軟らかい板に変わってきている感じがしています」

GGPの6回の試技内容を、次のように振り返った。

「1投目はセーフティーに投げて60m20だったので、もう少し行けると思いました。やりの飛び方(軌跡)もそれほど良くなかった。2投目は比較的綺麗に飛んだのですが距離が伸びませんでした(60m19)。(投射角や力の入れる位置を)もう少し前で投げることを意識したのですが(3投目は58m30で)、4投目は前に行こうとしすぎて体全部が前に行ってファウルをしてしまいましたね。自分の後ろ側に、っていう意識に戻して、5投目はそれがうまくいったので(62m02)、6回目は前の試合と違って、もうちょっと投げられると感じながら試合ができました」

2投目の軌跡を再現しようと、力の入れ方などを試行錯誤し5投目のやりは高さが出た。それで手応えを得て、6投目はいつも通りに、「最後だからと思って一生懸命投げる」ことで高さが出て、距離も伸びた。

「私の場合は柔らかさがないと高さのあるやりが投げられません。(柔軟性は)少しずつ改善はされてるな、と今回の2本で感じました」

63m45の記録以上に柔軟性が出ていることと、それを投てき技術に活用できていることが北口にとっては重要だった。

パワーを付けること、前で投げること、そして焦らないこと

パリ五輪まで3か月。北口は練習拠点のチェコに戻りトレーニングを積み、ダイヤモンドリーグなどを転戦して技術の精度を高めていく。

「今日の投てきが今季3試合の中では一番、自分のやりたい感覚に近かったと思うのですが、水戸までの2試合から引き算をしてきたので、そこからまた足し算をして何かを超せればいいのかな、と思います」

柔軟性を出すために、「力の方は度外視」してこの2週間は練習してきた。その成果がGGPで出て方向性を確認できた。しかし力の部分も、物体を投げる投てき種目では重要な要素となるのは明らかだ。

「これからもコンディショニング重視は変わりませんが、少しパワーを、どう付けていくかはまだ考えられていませんが、パワーを付けていくことをやれたらいいかなと思います」

技術的には「前で投げる」という部分である。GGPの3、4投目はそれが上手くできなかったが、それもプラスの要素があるから試していた。

「本当は投げ終わりがもっと前に行きたかったのですが(前に飛び出していくようなフィニッシュの動き)、そこまでやろうとすると上手くいかなかった。もう少し練習してそこまでつながれば、変わってくるかな。たぶん、(そうした技術的な部分が)1個できたら1個できなくなる、ということが続くとは思うのですが」

そうした細かい試行錯誤を繰り返して、今季の体の状態に最適な投げを8月のパリ五輪でできるようにしていく。その作業の結果でやりが飛ぶ距離が変わり、メダルの色が変わってくる。メダルに届かない可能性もあるだろう。

普通の選手であればストレスを感じてしまうが、北口にはその難しい作業を進めていくことを楽しんでいる様子も感じられる。「試合をすることに緊張を感じたことはないんです」と北口は以前話していた。今回と同じ国立競技場で行われた東京五輪では、背中の痛みもあり12位に終わったが、その後はトレードマークでもある笑顔を試技毎に出すように心がけている。

ヨーロッパで転戦をしていく今後、留意していくことは何か、という質問に次のように答えた。

「焦らずゆっくり8月までやることですかね。あまり根を詰めすぎずにやっていけたらいいな、と思います」

この姿勢があるから、北口は勝ち続けることができている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)