水俣病68年 届かぬ救済
小川彩佳キャスター:
今回現場では当事者の皆さんからどんな声が聞かれましたか。

RKK熊本放送 鬼塚龍史 記者:
参加者の1人は最初マイクが切れたとき、環境省がまさか故意にマイクを切ることなんてないだろう。音響トラブルだろうと思ったと当時の様子を振り返っていました。故意だとわかると会場は呆気に取られている状況から一変して、参加者の怒りの渦に包まれたという印象です。またマイクを切られたとき、松崎さんの“他の団体に迷惑をかけられない”と悔しさを押し殺したような表情が忘れられません。
参加者は年に一度の大臣との懇談の場のために様々な思いを整理し、自分の持ち時間内に大臣に伝えようとしていた中で今回の問題が起こりました。懇談後、参加者からは“この場は国や県のパフォーマンスであることが露呈した。長年、国や県が真剣に被害者に向き合っていなかったことの表れだ”という落胆や怒りの声が聞かれました。
小川キャスター:
ニキさんは今回のこのマイクが切られたという問題をどのようにお感じになっていますか。

英語通訳・翻訳者 キニマンス塚本ニキさん:
あまりにもひどすぎますよね。“帰りの新幹線が迫ってるから”じゃないだろうと。もう何十年も何十年も自分たちの境遇をちゃんと聞いてほしい、知ってほしい、正式に認めてほしい、認定をしてほしいという人たちの声を3分でまとめてくださいというのはあまりにも人をなめているというか。懇談会という定期的に行われていたものは、形骸化されたパフォーマンスです。“やってますよ感”を出して、“もう3分経ちました、帰りますね”という。それは本当にひどいことだし、文字通り声を奪う行為だということが今回明らかになったと思います。何十年分の苦悩を3分でまとめるなんて本当にあり得ないです。

藤森祥平キャスター:
これまでの水俣病への国の対応を見ると向き合い方がわかります。今から70年近く前に水俣病が公式確認された後、環境庁が認定基準を厳しくするなどして裁判も続けて行われてきました。
その後、一時金の支給決定などもあり、2009年にようやく被害者救済の特別措置法が成立しました。

水俣病被害者救済法(特措法)第三十七条
「政府は(中略)メチル水銀が人の健康に与える影響及びこれによる症状の高度な治療に関する調査研究を積極的かつ速やかに行い、その結果を公表するものとする」
15年経った今でもまだ調査は始まっていません。国は調査を始めるつもりは無いのでしょうか。

RKK熊本放送 鬼塚龍史 記者:
大きな壁となってきた社会の根強い差別や偏見を取り払うための一歩といえるのが、沿岸住民の健康調査です。調査が始まらない背景には、未だに水俣病の医学的な病像が明確になっていないことが挙げられると思います。国は“客観的な健康調査の手法を探る”として、これまでに脳の萎縮についてMRI画像を解析するやり方などを検討していますが、未だ確定には至っていません。なかなか調査に踏み込まない国の姿勢に対して、被害者からは“調査で患者が広がることを恐れているのではないか”、“認定基準や2度の政治解決の条件などを覆されるのが嫌なのではないか”など国、県に対して不信の声が聞かれます。水俣病が終わっていない問題であるということを改めて感じました。

小川キャスター:
5月10日、伊藤環境大臣は「この問題が終わっていない責任は、環境省に多くある」として水俣病対応の体制を強化すると発言しましたが、これまで動かなかった状況が果たして変わるのでしょうか。

TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
自民党の議員の中でも例えば2018年に亡くなった園田博之衆院議員や熊本選出の議員などはこの問題に尽力して特措法の成立にも協力したのですが、政治家のバックアップの体制が非常に弱くなっているという状況があります。また、伊藤大臣はいくつかの点で見当違いをしていると思います。今回、懇談会で聞く姿勢がなかったということだけではなく、体制を強化すると言っていますが、環境省の体制を強化するのではなく、総理大臣や法務省に対して姿勢を改めさせ、国の姿勢を変えていくべく努力するのは伊藤大臣の仕事です。体制を強化したり何度も謝りに行くだけではありません。本質的なところを変えない限りこの問題のミスジャッジ、トラブルは度々起きてくると思います。

小川キャスター:
国として方針転換する時間には限りがあります。水俣病の認定患者の約9割の方は既に亡くなっていて、存命患者の平均年齢は80.4歳ということで、認定を待ち続けている方の高齢化も進んでいる状況があるわけですね。
英語通訳・翻訳者 キニマンス塚本ニキさん:
水俣病は歴史の教科書に載っていた過去の話というわけでは決してなく、水俣病でなくてもこれからまた更に新しい公害問題が起きたときに、国は我々を守ってくれるのだろうか、そもそも公害だということを認めてくれるのだろうかというところからも、根本的な信頼感が揺らいでいますし、“かわいそう”ではなくて、“許せない”という怒りをもっと持つべきだと思います。

小川キャスター:
長く置き去りにされてきた苦しみ、悲しみがあるということもはっきりと浮き彫りとなったのが、今回の問題だったと思います。こうした伊藤大臣が表明した水俣病の体制強化にとどまらず、15年行われてこなかった健康調査が実際に行われるのかどうか、そして国としての方針転換があるのかどうか、しっかり見ていかなければなりません。
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<プロフィール>
鬼塚龍史 記者
RKK熊本放送
警察担当を経て去年から熊本県政担当
環境省の“マイク切り”など一連の問題を取材
キニマンス塚本ニキさん
英語通訳・翻訳者ラジオパーソナリティ
東京都出身 9~23歳までニュージーランドで過ごす
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
1955年生まれ 福島県出身 政治記者歴30年














