Aさんが失ったもの

一方で、失ったものも少なくありません。Aさんは逮捕後、それまで勤めていた会社を退職せざるを得ませんでした。

Aさん(30代)「職を失ってすごくきつい思いをしています。被害者の立場からみれば『自業自得だ』というのは当たり前だと思うし、僕が職を失って別の職につかなければならないような生活をしているのは、自分が悪い、自業自得だから頑張ろう、と思います。ただ、被害者ではない全くの第三者からの「自業自得」という言葉は、やはりこたえます」

治療にたどりつく加害者まだわずか

Aさんの場合は、たまたま妻に理解と行動力があり、再犯防止のための治療プログラムにたどりつきました。しかし治療プログラムにむすびつくケースは、まだ少数です。福岡県では、2020年5月、加害者の再犯を防ぐ取り組みとして、「福岡県性暴力加害者相談窓口」を立ち上げました。性加害者からの相談を受け、再犯防止プログラムの実施や、社会復帰のための生活自立支援、問題行動を是正するための専門医療機関等の紹介などを行うものです。福岡県によりますと、取り組みを始めた2020年5月から、2023年9月までの対面での相談者数は165人にとどまっているということです。

再犯防止「社会の問題として捉えて」

加害者への治療プログラムを提供している民間の支援施設「ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ」代表の金谷大哲さんは、これまで医療機関や海外の医療NGOなどで、臨床心理士として活動してきました。欧米に比べ日本では、性犯罪加害者の再犯防止を支援する機関が少ないと感じています。

ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ金谷大哲代表「海外は性的な問題行動を個人の問題と捉える日本と違って、社会の問題と捉えられています。社会の問題として再犯防止に取り組んでいるので、社会に戻ってくる性犯罪をして受刑している人への社会復帰支援などがとても具体的で、社会と施設が密着しているんですね。日本は反省、謝罪、そういったことを求める文化なのか、その人の問題という風に捉えて結論づけてしまって、”自分たちとは無関係のような問題”にしてしまう風潮が強いのではないかと思います。それは殺人であっても性犯罪であっても、覚醒剤であっても。地道にその人だけの問題じゃなくて、我々みんなの問題という風に捉えるような働きかけができるようになればいいなと思います。」

記者犯罪加害者にとってどのような社会になってほしいと思いますか?

ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ金谷大哲代表「人間はみんなそんなに変わらないというか、同じような作用が積み重なって、同じような状況に陥ったときには、人間誰しもその行動に着手する可能性が0じゃないかも知れないと僕は思っています。自分のことのように、人の問題行動を捉える社会になっていてほしいなと思います。」

盗撮5年で1.5倍に

なくならない性犯罪。警察庁のホームページによりますと、2022年の盗撮の検挙件数は5737件にのぼっていてこの5年で約1・5倍に増えています。盗撮は再犯率も高く、平成27年版の犯罪白書では盗撮の再犯率は36.4%とされています。

加害者の再犯を防ぎ、傷つく被害者を増やさないために、社会として向き合っていく必要があると感じています。

RKB毎日放送 記者 奥田千里