プラス材料は「頭で考えられるようになった」こと

DL蘇州と水戸招待の全試技を表にした(写真参照)。

北口のDL蘇州と水戸招待、全試技

蘇州の4回目までの記録は、考えられないくらいに悪かった。5回目に61m44を投げなかったら、3回目の58m93で試合が終わっていた(DLは5回目終了時点の上位3人が6回目の試技を行うことができる)。58m93なら22年以降の3シーズンで最低記録になっていた。

日本陸連ホームページで北口は蘇州大会について、「試合直前の練習の状態が本当に良くなかった。とにかくやりが飛ばなくて、やりたいことを整理できないまま試合に臨みました。最後は思い切りいこうと、気持ちだけで投げました。技術のことは考えずに投げてしまったのは初戦としては反省点です。もうちょっと気持ちに余裕を持ってできたら良かったです」と振り返っている。

水戸の優勝記録は蘇州よりわずかに落ちたが、それは問題ではない。DLと水戸招待では出場する意味が大きく違うからだ。DLは世界トップ選手たちと対戦し、勝敗がそのシーズンに影響する。ライバルたちが「今年も北口は強い」と感じてくれたら、その後の試合を優位に展開できる可能性が膨らむ。

水戸は国内選手間の争いで、もちろん負けたらよくないが、自身の技術を確認することをメインに試合ができた。やりたいことを試すことも、“何も考えないこと”も試すことができる。

「1投目から60mを投げられたことは蘇州よりよかったと思います。今日のアップでも50m超えなくて、(小さくガッツポーズが出たのは)60mを超えただけでもうれしかったんです。しかし2投目から記録が伸びませんでした。日本記録の動画を見て、その時と同じイメージで投げられるようにと思っているのですが、スピード感や(地面から)返ってくる反発が思うようにいかなくて。今日は追い風だったのであまり走らなくても進むと思ったのですが、思ったより走らないと進みませんでした。蘇州では5投目で“もっと走らなきゃ”と思って(そこだけ)やったのですが、今日は“ああしたい、こうしたい”というのが試合中、頭によぎってしまって。考え事をしてちょっと動きが止まる感じになってしまいました。何も考えないで全力で投げることは、(6投目も含め)今日はできませんでした」

だが水戸で一歩進めた手応えも得られた。蘇州では「(4回目まで記録が悪すぎて)必死に投げるしかなかった」が、それに比べれば「今のこうだった、っていうのを考えながら試合ができました。ようやく頭が動き出した」と感じられた。

次戦のゴールデングランプリには北口、マッケンジー・リトル(27、豪州)、フロル・デニス・ルイス・ウルタド(33、コロンビア)と、昨年の世界陸上ブダペストの金銀銅メダリストがそろう。さらに世界陸上で金メダル2個(19年と22年)のケスリー・リー・バーバー(32、豪州)も出場する。

パリ五輪に向けて「プレッシャーは感じていませんが、このままじゃいけない。今は昔(昨シーズン)の感じに戻りたいと思っています」と話す北口が、五輪前哨戦ともいえるメンバーを相手にどんな戦いを見せるか。北口といえども簡単に勝てるメンバーではない。蘇州から水戸まで1週間しかなく、海外にいるコーチ(チェコ人のデービッド・セケラック氏)との話し合いも進められなかった。次のゴールデングランプリまでは2週間の間隔がある。その間に北口陣営がどんな対策を行うか。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)