2024年は中国にとって「節目の年」

若者が主導した「五・四運動」にちなんで、毎年5月4日が「青年の日」。そして、社会に貢献してきた若者を、共産党の青年組織が表彰するようになった。勲章を与える共産主義青年団は、受章者たちをこのように表現している。

“「彼らは、共産党に揺るぐことなく従い、共産党と共に歩み、初期の使命を忘れることなく、誠実な献身と勇敢な努力をしてきた」”

「中国共産党の指導を忠実に実践してきた模範青年」ということだろう。今の中国共産党は、この「五・四運動」の影響によって、「五・四運動」の2年後の1921年に誕生し、現在に至る。その共産党が政権を獲って今の中華人民共和国ができた…。だから、5月4日は特別な記念日なのだ。

中国共産党は「節目」を大切にする。この表彰は、毎年の行事だが、今年はさらに二つの意味を持つ。2024年は中華人民共和国の建国から75周年。つまり「四分の三世紀」という節目にあたる。もう一つ「五・四運動」が起きてから105周年でもある。

今の中国が「中華民族の偉大な復興」を掲げるだけに、このような模範的な若者の活動を、例年以上に大々的に宣伝しているというのも、理解できる気がする。

中国は敏感な時期に…

ただ、さらに「もう一つの節目」が気になる存在だ。今年6月4日は、天安門事件から35年にあたる。中国における節目とは、一般的に5年ごとで、あの天安門事件にも節目が来る。天安門事件は、1989年6月3日から4日未明にかけて、北京の天安門広場で起きた、民主化を求めた学生、市民を人民解放軍の戦車と銃で制圧した惨事だ。

105年前の「五・四運動」には、35年前の天安門事件と共通点がいくつかある。主役が学生であること、場所は北京の天安門から始まったこと。「五・四運動」は反日・反帝国主義運動であるとともに、それを許した当時の指導者たちへの怒りもエネルギーになった。その意味においても、天安門事件と共通している。

今の習近平政権からすれば、2024年は建国75周年、「五・四運動」105年は祝いたい。だから、共産党に忠実な模範青年たちを「五・四運動」記念日に合わせて表彰し、宣伝したい。中華民族の意識を高めたい。だけど、高揚した若者のエネルギーが、望まない方向に向けられては困る。

天安門事件から35年が経つ。事件後生まれた人、事件を知らない人、つまり35歳以下は総人口の半分を占める。天安門事件は確実に風化している。だが一方で、35年前の天安門事件を知らなくても、閉塞した社会への不満・不安は確実に増えている。中国経済の不振は、若い世代ほど大きな打撃を受けている。

「五・四運動」を記念することは、共産党、そして中華人民共和国、つまり今の中国のルーツを確認する行事。そこには、中国を侵略した国家・日本という対象が存在する。当然、強調すればするほど、ナショナリズムが高揚する。それは時に沸点を超えた行動に至ることもあり得る。

中国の近現代史を振り返ると、社会変革・体制変革を促すのは、若者たち、とりわけ知識を持つ大学生だった。だが、今は過去に例を見ないほど、厳しい統制下にあり、若者たちは表面的にはものを言わないし言えない。ただ、内では沸々としたエネルギーはたぎっているのではないだろうか。

そのエネルギーがなにかのきっかけで、行動になり、それがどこに向かうのか。習近平指導部としては、警戒すべきことだ。5月4日の「五・四運動」記念日、その1か月後の天安門事件が起きた6月4日、中国は敏感な時期に入っていく。

飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。