脱・「つまらない政治家」?SNS戦略で見栄えの良さより重視した「親しみやすさ」

加藤氏の答弁と言えば、厚労大臣時代の2018年、働き方改革の国会審議において、野党側から「質問に正面から答えず、論点をずらす、いわゆる『ご飯論法』だ」と指摘を受け、“不誠実だ”と批判もされた。
官房長官になった加藤氏は在任中、会見などで目立った失言もない一方で、カメラの前で相好を崩すことはほとんどなく、厳しい表情で記者とやり取りする姿が目立った。そのため、加藤氏の周辺は「冷たい印象を与える」「本来の人柄が伝わらない」と気を揉んだ。
そしてわずか1年で菅政権が終焉を迎え、加藤氏も任を終えた。官房長官が行う1日2回の会見がなくなり、“発信”の機会が減ることから、強化したのがSNSでの発信だった。

視察や地元の行事などの訪問先で加藤氏が自撮りし、カンペを読まずに即興で話す。加藤氏のSNSに投稿された動画を見ると、顔面のアップで画面の半分ほどが埋まる不思議な構図。一貫しているのは、「手作り感」に拘り、あえてNGテイクで緩んだ表情の加藤氏の姿を載せるなど、「動画を見た人に親近感をもってもらう」ような動画であること。「つまらない」「遊びがない」など従来の“加藤評”を覆すべく、薄紙を剥いでいくような作業だった。
今も総理総裁への志消えず 密かに明かす胸の内
様々な角度から発信を試みる加藤氏だが、今もポスト岸田を見据えているのか。公の場でその核心に触れられることはなかったが、周囲にはその胸の内を明かしている。
「ずっと高みを見ている。志はある」
今でも総理総裁への意欲を持ち続けていることを、明言しているという。
まだ一度も総裁選に出馬したことのない加藤氏。では、いつ動くのか。
そもそも、世論調査の数字が低くても「ポスト岸田」の1人として加藤氏の名前が上がり続ける理由の1つに、清和研(安倍派)と志公会(麻生派)という、党内の2大派閥が、「加藤支持」でまとまる可能性がある、という点も大きかった。加藤氏は安倍元総理と近く、麻生副総裁も加藤氏を高く評価しているからだ。また、当選同期の萩生田前政調会長(安倍派)、武田元総務会長(二階派)と定期的に会合をもち、彼らからも「ポスト岸田」の一人として一目置かれる存在となっている。
しかし自民党派閥の裏金事件を受け、麻生派を除く派閥は解散。総裁選に向けての動きは不透明さを増している。
また、自身が所属する平成研の茂木会長が「ポスト岸田」をうかがっていることから、加藤氏も表立っては動きにくかった。派閥としての平成研は解消されたものの、「政策集団」としては存続することとなり、加藤氏は現在もメンバーとして残ったまま。今後、加藤氏がどう動くのかが注目されている。
そんな中、加藤氏は今のタイミングで「ポスト岸田」を狙い、自ら積極的に動くことには否定的な考えだという。
「仕掛けた人は大体、嵌っている。やはり大きな流れというのがあって、それに乗っていくものだ。『幸運の女神に後ろ髪はない(古代ギリシャの諺)』。前を通り過ぎた時には掴める後ろ髪がないので、ふっと現れた時すかさず前髪を掴めるよう準備はしている。いつ、何があるか分からないから」(加藤氏・周囲に対し)
加藤氏は時流に乗ることを大切にし、頼まれた仕事は基本的に断らないスタンスだ。一方で、自ら手を挙げ「これをやりたい」ということはない。それゆえ、「何でもできるが、何を一番したいのかが分からない」と評されることもある。自分が総理総裁になり、一番やりたいことは何か。それは加藤氏自身も模索している最中であるように思える。
党内で今も社会保障や憲法改正、税調の議論をリードする責任ある立場を任されている加藤氏。存在感を示し、総理総裁への足がかりを掴むことはできるのか。
準備に時間をかけ没頭していれば、幸運の女神を見逃すことにもなりかねない。
政治部 与党担当 サブキャップ
難波澪