絶海の孤島「ロードハウ諸島」

世界遺産「ロードハウ諸島」(オーストラリア)

また番組で取り上げた中で最も衝撃的だったのは、オーストラリアの自然遺産「ロードハウ諸島」。シドニーの北東770キロの海に浮かぶ島々ですが、その中に「ボールズ・ピラミッド」という孤島があります。高さ560メートルを超える無人島で、洋上にそびえるピラミッドみたいな形をしており、ボールという人が発見したのでこう名付けられました。

海にそびえる島「ボールズ・ピラミッド」

ここの固有種が「ロードハウナナフシ」という昆虫。ナナフシというと、棒のような細長い体と脚で木の枝に擬態する虫というイメージですが、ボールズ・ピラミッドで発見されたものは全く違いました。体長は15センチもあって体も太く、その姿から「歩くソーセージ」と呼ばれています。番組でも撮影したのですが、人の両手の上に乗っている黒く大きなロードハウナナフシは尋常ならざる迫力があり、映像を見た女性スタッフが思わず悲鳴を上げたほどインパクトがありました。

「歩くソーセージ」と呼ばれるロードハウナナフシ

ロードハウナナフシは、かつては近くのロードハウ島にも生息していたのですが、移住した人と共に島に入り込んだネズミに食べ尽くされて絶滅。人間もネズミも寄せ付けない、海のピラミッドで生き延びてきたのです。

固有種のロードハウクイナ

ロードハウ島には「ロードハウクイナ」という固有種の鳥もいました。天敵のいない環境で「飛べない鳥」になった種なのですが、やはり人が持ち込んだブタが卵を食べて激減。ブタが登ることができない山岳部でわずか20羽が生き延びるのみという絶滅寸前まで追いつめられました。その後、ブタを駆除し、飼育・繁殖させるなどして、今では約300羽まで増えて低地でも見ることができるようになりました。

それぞれの島の環境に合わせて独自の進化をとげた生きものたち。孤立した環境が生んだ生態系だからこそ外部からの影響に脆く、ロードハウ諸島の例のようにたやすく崩れてしまう恐れがあるのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太