植田総裁の言う「緩和的な状況」とは
植田総裁の言う「緩和的な状況」とは、実質金利が、景気を熱することも冷やすこともない「中立金利」を下回っている状況のことだと思われます。
今の日本は、名目金利は0.1%、インフレ率(の目標)が2%ですから、実質金利はマイナス1.9%です。一方、中立金利を求めることは簡単ではありませんが、潜在成長率がゼロ近辺まで落ちている今の日本では、若干のマイナス圏に入っていると見る向きが多いようです。仮に、中立金利がマイナス0.5%だとすれば、マイナス1.9%という今の実質金利は1.4ポイントも低く、「十分、緩和的」ということになります。
従って、仮に名目金利をさらに2回利上げし、0.5%まで上げたしたとしても、実質金利はマイナス1.5%にしかならないので、依然として「十分、緩和的」というのが、植田総裁の理屈なのでしょう。
焦点は物価上昇の中身、本当に基調は上向くか
円安傾向が一段と強まり、原油価格も再び騰勢を強めています。また、岸田政権は電気ガス代の補助を5月使用分をもって打ち切る方針で、物価上昇率は当面、高めに推移しそうです。その意味で表面上、2%の物価目標達成の持続性は高まっていますが、賃金上昇や需要増大を背景にした物価の基調が本当に上昇するかが、最大の焦点です。
コストプッシュ型インフレの予想外の継続に、むしろ家計が負けてしまうことはないか。好調な春闘の数字が、広い世帯の実質所得の増加に、どこまでつながるのか。植田総裁の「前のめりの姿勢」とは裏腹に、むしろ、難路が待ち構えているように思えます。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)