70兆円超のETFの処分はさらに難題

それでも国債は時間が経過すれば、いずれ償還時期を迎えます。しかし、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)は売却しない限り、手元に残り続けます。日銀が保有するETFの残高は時価で70兆円を超えており、その売却は市場に大きな影響を与えます。

こちらも当面は手が付けられないにしても、民間企業の「筆頭株主が日銀」といった異常な状態の放置は、ガバナンス上も好ましいことではありません。

異次元緩和の名のもとに、間接的とはいえ、株や土地まで日銀が買ったツケは、処分方法を考えることからして難題です。

「円安定着」という置き土産も

17年ぶりの日銀の利上げにも関わらず、決定後には為替市場で一時1ドル=151円台まで円安ドル高が進みました。植田総裁が「当面、緩和的な金融環境が継続する」と述べたことで、市場が追加利上げは遠いと判断したためです。

利上げと言っても、わずか0.1%と日米金利差はほとんど変わっていないので、市場への影響が小さくても当然なのですが、アナウンス効果が全くなかったことは、円高方向に戻す力が弱まっていることを改めて認識させる出来事でした。

異次元緩和の最大の「功績」は、為替市場で円安を実現したことです。とりわけ各国が急激に引き締める中でも、日本がマイナス金利を維持したことで、円安は一段と進みました。この間、日銀が繰り返し発した「緩和継続」のメッセージは、市場のセンチメントを大きく変えてしまったようです。

物価上昇をこれ以上加速させないためにも、長期金利の急騰を避けるためにも、何より財政赤字を国債で安定的に手当てするためにも、円安シナリオはリスクの高い選択だと、私は思います。

長かった異次元緩和が終わり、異次元緩和の大きなツケとの、長い長い戦いが始まりました。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)