「虐殺はなかった」というフェイク
警察署内に保護されていた朝鮮人を民衆が引きずり出して首をはねた事件もあります(本庄事件)。「陸軍が荒川の河川敷に朝鮮人を集め、機関銃で殺害した」という日本人の目撃証言もあります。「忘却は再び同じ過ちを犯す」と考える良心的な日本人の調査により、肉声の証言や記録の掘り起こしが進められてきました。自分たちの祖父母世代、曾祖父母世代が朝鮮人を虐殺した、などとは、誰しも考えたくはありません。それは普通の感情です。しかし、日本人として、苦痛を抱きつつ私は言わなければなりません。虐殺はれっきとした事実でした。
震災犠牲者を弔う東京都慰霊堂がある公園では1973年、虐殺された朝鮮人の追悼式典が始まりました。大震災から50年後ですから、まだ実際に目撃した日本人が数多く生きていました。しかし、目撃者は次第にこの世を去り、入れ替わるように、虐殺を否定する人々が出てきました。
追悼碑から20メートルしか離れていない場所で、「日本女性の会 そよかぜ」が集会を開き、騒音で式典のしめやかな進行を妨害するようになったのは、2017年のことでした。

「朝鮮人が、震災に乗じて、略奪・暴行・強姦などを頻発させ、軍隊の武器庫を襲撃したりして、日本人が虐殺されたのが真相です。犯人は、不逞朝鮮人、朝鮮人コリアンだったのです!」
式典会場に、スピーカーからこんなひどい言葉が流れてくるのです。東京都が「そよ風」に集会を許可し、慰霊の場が汚されるようになったのは2017年からです。ジャーナリストの安田浩一さんは“虐殺否定論者”の狙いを「あえて混乱を起こすことによって、『両方とも政治集会なんだ』という結論に持ち込んで、そもそも在日朝鮮人による慰霊祭そのものをなくしてしまおう、つぶしてしまおうという思惑が働いているからこそ、混乱を持ち込むような集会を開催している」と分析します。