「一線を引いた」植松聖死刑囚

津久井やまゆり園事件と、ヘイトスピーチ。一見無関係に見える事象は、「底流でつながっているのではないか」と思いました。それは、相手と自分の間に「一線」を引き、線の向こう側の人たちの尊厳を認めない、という一面です。2017年12月、私が植松聖被告に初めて接見した時のやりとりです。
神戸)
生と死を司るのは、神のやることなんじゃないんですか。あなたは神なのです
か?
植松)
そんなことは言っていません。恐縮ですよ。みんながもっとしっかり考えるべ
きなんです。考えないからやったんです。私は、気付いたから。
神戸)
歴史学者も哲学者も、世界史上にはたくさんいたのに、なぜあなただけが気付
くことができるんです?
植松)
私はたまたま(やまゆり園)で仕事をして、気付いてしまったので、仕方ない
んです。
神戸)
どうしてそんなに自信があるの?
植松)
自信があるというか、「人間ではない」と確信を持ったんです。
神戸)
あなたは一線を引いたのですか?
植松)
そうです。
神戸)
どうして、あなたが線を引く権利があるのですか?
植松)
じゃあ、誰が決めればいいんですか?! 付いてしまったんだから。 落し物を
拾ったら届ける。当たり前ですよね。それと同じような感覚ですよ。
植松聖被告は、障害者と自分の間に「一線」を引いたのです。TBSラジオと共同制作した最初のドキュメンタリーは『SCRATCH 線を引く人たち』というタイトルにしました。「スクラッチ」とは、英語でガリガリと地面に線を引く、という意味があります。やまゆり園とヘイトスピーチの共通した底流に焦点をあてたのは、2017年のこの番組からです。このラジオドキュメンタリーが、TBSドキュメンタリー映画祭で今回上映する『リリアンの揺りかご』の母体となっていきます。
神戸金史(RKB毎日放送)