◆「奇声をあげる弟を隠したいと思っていた」

幼い頃の兄弟

宏介さんのアトリエは福岡県太宰府にある実家。母と一緒に暮らしている。そこに兄の信介さんが顔を出す。

兄・信介さん 「宏介、北海道の動物の絵、売れたよ!」
弟・宏介さん 「ありがとうございますっ」

宏介さんの楽しみは、製作の都度に兄から手渡されるギャラだ。

兄・信介さん 「宏介、はい、これ今回の分」
弟・宏介さん 「ありがとうございますっ」

大きな声で礼を言い、封筒ごとポケットへ。「何に使うんですか?」という筆者の問いに、宏介さんは絶妙な間をためて「内緒です!」とこたえた。毎日通う福祉作業所で仲間からウィットに富んだ会話を覚えてくるそうだ。仲睦まじい太田さん兄弟だが、思春期の頃はそうではなかったという。

太田信介さん(49)
「弟が奇声をあげて物を叩くので、周りの人がびっくりして逃げていくんですね。僕も白い目で見られる・・・まあ、僕はとりあえず遠い所に行きたいな、弟の存在を隠したいなっと思ってました。」

◆高校は電車で1時間半以上かかる場所を選んだ

高校は自宅から電車で1時間30分以上かかる場所にある県立高校を選んだ。

太田信介さん(49)
「ここまで遠ければ、友人が家に遊びに来たがることもないと思ったので」

高校卒業後は、一人暮らしをするため熊本県内にある大学に進学した。友人たちには弟の存在をひた隠しにしていた。

太田信介さん(49)
「同窓会などで旧友に会うんですが『あの頃、全然話してなかったよね』と言われます。どんな風に思われるのか、怖かったんでしょうね。友達とお酒を飲みながらわいわい騒いでいる中『実は弟に障がいがあってさ』と言った時に、チーンと盛り下げたりするんじゃないかなとも思っていましたし。」

◆弟に対する後ろめたさも

太田信介さん(49)
「弟の事を嫌いじゃないので。小学一年生の時に生まれたのでやっぱかわいいんですよね。ただ周りの目が気になるので…その狭間にいて罪悪感でいっぱいでした。弟に申し訳ないな、という気もしていたし、弟が悪いことしてるわけではないので。心の中では相反する思いが葛藤していました。」