世界的な半導体メーカ-、台湾のTSMCが今年2月、熊本県の第1工場をオープンしました。日本政府によるTSMCへの支援額はこれから建設される第2工場をあわせておよそ1兆2000億円に上ります。なぜ、これほど巨額の支援が必要なのか、経産省の半導体政策の責任者である商務情報政策局の野原諭局長に聞きました。

最大の目的は安定供給「ビジネス上の合理性がある間に投資を呼び込む」
ーーー台湾のTSMCを国策として日本に誘致した狙いを教えてください。
野原諭局長:
安定供給ですね。半導体不足による経済、国民生活への影響を最小化することで安定供給を図るというのが第1の目的であります。国民生活を半導体不足から守るという目的なんです。2つ目の目的が省エネといいますか、カーボンニュートラルの観点で、AIが出てきてすごく電力消費が爆発的に増えていきますので、それに対して半導体のイノベーション、微細化で電力消費を抑えるという目的。それから3つ目に、成長産業がありまして、今後10年間で世界市場が2倍あるいは、3倍に増えるというふうに成長するっていうふうに見られてます。いまは50兆くらいの市場規模ですが、それが150兆円ぐらいの産業に10年で成長すると言われていますので、TSMCの熊本の工場は、第1の目的の安定供給を図るということに非常に大きな役割を果たします。データを制御するロジック半導体が半導体の分野で一番中心的になるわけですけれども、このロジック半導体の最先端の部分は、日本国内に生産拠点がありません。TSMCの熊本工場の1号棟では、12ナノメートルから28ナノメートルという日本には今まで生産拠点がなかった半導体の生産を行いますので、安定供給を図るという意味で非常に重要な意味を持つ。それから、熊本のTSMCへの投資をきっかけにですね、非常に九州地区の経済、盛り上がっておりますので、地域経済の浮揚にも非常に大きな意味を持ちます。特に熊本地震がありましてそこからの復興のプロセスでも、このTSMCへの投資は非常に大きな役割を果たすというふうに考えています。
ーーーなぜ、このタイミングで誘致をしたのですか。
野原諭局長:
公共政策が効果を持つには、世界的な情勢の変化や潮流の変化を捉え、政策を強化して出ていくタイミングを捉える、チャンスをつかむことが非常に大事だと思っています。地政学的な情勢の変化で、国際的にグローバルな半導体のサプライチェーンの組み替えがいま起きている状況ですから、このタイミングで日本として半導体産業を強化するということです。
半導体産業は成長産業だということで、各国みんな熱心に半導体政策を大規模な財政出動して誘致しようと競っていますけれども、日本もかつて世界一だったレガシーといいますか、遺産といいますか、半導体の製造や素材については世界シェアがまだ50%ありますし、製造装置についても30%の世界シェアがあるということで、一部日本の半導体強いところがまだ残っています。そういった日本の強みを生かして、日本に投資することにビジネス上の合理性がある間に投資を呼び込んで、日本の半導体の産業を分厚くして強化しているところであります。