米国が本当に懸念しているもの

ベッセント財務長官は以前から米金利上昇への懸念をにじませてきた。その意味で、円安是正や日本の金融政策正常化が、米金利上昇リスクの抑制と結び付いている可能性は十分に考えられる。

一方で、より重要なのは第三の米経済要因である。円安是正についてはトランプ大統領も円の過小評価に言及しており、以前からドル安が米国経済に有利であるとの考えを示してきた。

高市首相は「円安によって米国の貿易が厳しいという話があった」(TBS)と述べた。またベッセント財務長官も民間部門主導の持続的な成長の必要性を訴えている。

もし米国が債務問題によって高金利環境の定着を余儀なくされれば、追加的な財政出動によって景気を支える余地は限られる。

その場合、民間部門の成長を支援する手段として、相対的なドル安政策が魅力的な選択肢となり得る。米企業の国際競争力を高めるという観点からも、ドル安には一定のメリットが存在する。

したがって、今回の円安是正論が単なる金融市場安定化策なのか、それともドル安政策の一環なのかは極めて重要な論点である。

真の論点は米国の債務問題

ここで、今回の円安是正論が、①日本国内要因や②米金利要因が中心である場合、円安や長期金利上昇が落ち着けば問題は概ね解消される(目的が達成される)。
ところが、③米経済要因が大きい場合は話が異なる。米国政府が継続的なドル安を望むのであれば、ドル円相場は中長期的に円高方向へ向かう可能性があり、現在の市場環境は一時的なものではなくなるからだ。

結局のところ、今後の方向性を決定するのは米国政府が債務問題をどのように解決しようとしているのかである。

仮に一定の財政健全化を進める方向であれば、ドル安を容認しながら対外競争力を高める選択が合理的となる。その場合、ドル円相場は中期的に円高方向へ向かう可能性がある。

他方、インフレによって実質債務負担を軽減するという選択を志向する場合には事情が異なる。

インフレが行き過ぎるリスクを抑えるためには、むしろドル高が望ましい局面もあり得る。その場合、現在の円高圧力は一時的なものにとどまる可能性もある。

市場では為替に関する一つ一つの発言に注目が集まりがちである。しかし、本当に重要なのは円安是正そのものではない。

円安是正論の背後にある米国の債務問題と、それに対する米国政府の解決戦略である。

ドル円相場や日本の長期金利を展望する上でも、今後は為替発言以上に、米国がどのような財政運営と債務戦略を選択するのかを見極める必要があるだろう。

なお筆者は、米国が③米経済要因を背景として、徐々にドル安・円高を容認する方向へシフトしていく可能性が高いとみている。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)