(ブルームバーグ):欧州に対するロシアの攻撃は夏の間ずっと続き、欧州の深い地域にまで及ぶようになった。
8月11日には40億ユーロ(約7200億円)を投じたルーマニア沖のエネルギープロジェクトの近くで、海上に浮いていたドローン(無人機)2機を軍の潜水士らが破壊した。その9日後、同じ黒海のガスプラットフォーム付近にまた海上ドローンが接近し、迎撃のためルーマニアはF16戦闘機2機を緊急発進させた。プラットフォームでは数百人が働いているため、ドローンの攻撃を受ければ大惨事となる可能性がある。
同月の初めには、ドイツ警察がライプチヒ空港で攻撃用ドローンを検知。今週には北大西洋条約機構(NATO)の戦闘機が、ロシアの同盟国であるベラルーシからNATO加盟国であるリトアニアの領空に侵入した別のドローンを撃墜した。
この全ての事件で、非難の矛先が向かったのはロシアだ。
プーチン大統領が開始したウクライナ侵攻は、毎週数千人もの死傷者を出しつつ、戦場ではほとんど前進できていない。一方で、欧州に対するいわゆる「ハイブリッド攻撃」は、その数だけでなく、その無謀さも増している。
最前線に立つ企業は、戦争と平和の間の「グレーゾーン」に自らがはまり込んでいると認識している。敏感な問題を話しているとして匿名を要請した欧州の当局者は、民間の死傷者が発生するのは時間の問題でしかないだろうと懸念を示した。
「欧州の防衛産業が、数年前とは異なる安全保障環境の下で活動していることは明らかだ」と、8月に放火に遭ったエストニアの防衛企業ミルレム・ロボティクスのクルダル・ヴァールシ最高経営責任者(CEO)は述べた。「NATO加盟国やウクライナなどその他の同盟国やパートナー国で使用されているシステムを提供する企業として、その結果生じるリスクを考慮に入れなければならない」と続けた。
米司法省は今週、ロシアの情報機関が大統領府の指示を受けて欧州で「テロへの資金提供と殺人依頼を画策している」と非難した。防衛産業や公益関連施設、交通システム、通信ネットワークが相次いで攻撃を受けている欧州は、過去数十年間で最大の安全保障上の脅威に直面している。
現時点で、欧州がこの試練に対処できる態勢にあるのかは不明だ。
「攻撃側にとって開放的な社会は好都合で、いわゆるハイブリッド攻撃への対応に欧州は苦慮している」と、元NATO欧州連合軍副最高司令官のジェームズ・エベラード氏は指摘。
「これは戦闘を伴わない戦争だ。核の盾の後ろから、直接あるいは代理勢力を通じて罰されることなく行動できるとロシアは確信している」と同氏は語った。
日々標的に
NATOの集団防衛条項により守られていると長く見なされてきた欧州で、こうした事件がこれほどの頻度で、これほど幅広く発生するとは数年前までは考えられなかった。しかし、NATOに対する米国の関与にトランプ大統領が疑念を投げかけ、冬を前にロシアが対ウクライナ攻撃を激化させる中で、欧州の安全保障に対する確信はいまやはるかに揺らいだように見える。
ドイツのドブリント内相は今月1日、ドイツはロシアの「ハイブリッド戦争で日々標的にされている」と発言。これに対し、ロシアのペスコフ大統領府報道官は、こうした非難は「全く根拠がない」と一蹴した。

あるNATO加盟国の当局者によると、過去2カ月でロシアはウクライナ支援に直接関連する防衛産業や物流上の標的へと狙いをシフトさせている。この攻撃的な作戦でリスクは一段と増し、ロシアは直接的には責任を否定できるような手法で攻撃を仕掛けていることから物理的な損害そのものよりも、戦略的に重要な意味を持っていると当局者は述べた。
ロシアは先週末に欧米の要人が通過していたウクライナとポーランド国境近くの鉄道駅をドローンで攻撃した。ロシアの攻撃が大胆さを増し、第三国の犠牲者が出ても構わないと考えていることの表れで、NATO加盟国当局者の評価も変わる可能性がある。こうした攻撃は、これまでほぼタブーとされてきた。
規模、はるかに大きい
ハイブリッド攻撃の場合、対応の難しさやエスカート回避、情報収集の手法を明らかにすることを避けるなどの理由で、ロシアを公然と非難しないこともあると、当局者は説明。重要インフラなどに対するサイバー攻撃やハッキングの多くは、ほとんど、あるいは全く報道されていないという。このため、問題の規模は公になっているものよりはるかに大きい。
事情に詳しい関係者によると、ドイツの兵器メーカーの多くは日常的にサイバー攻撃の標的となっている。2024年には、防衛大手ラインメタルのアルミン・パッペルガー最高経営責任者(CEO)の自宅が放火された事件が起きた。西側の情報機関からロシアが殺害を計画しているとの警告を受けた同氏は現在、移動の際には厳重な警護を伴い、ラインメタルも全般的な警備対策を強化している。
ドイツのレーダー・センサーメーカー、ヘンゾルトは、工場でのドローン監視や周辺警備を強化しており、ドローンを自ら撃墜するために必要なインフラも構築したいとオリバー・デーレCEOはインタビューで述べた。それには連邦警察の承認が必要となるが、状況が悪化する前にガイドラインの迅速な整備が必要だと論じた。
ウクライナ向け支援物資の主要な輸送路となっているポーランドでは、不審な事件が相次いでいる。水道やエネルギーインフラ、病院などの公共施設に対して多数のサイバー攻撃が発生しているほか、ロシア情報機関の仕業とみられるワルシャワとウクライナ国境を結ぶ鉄道線路の損傷事件も起きた。
トゥスク首相は8月、欧州最大級のドローンメーカー、WBエレクトロニクスの工場で起きた火災を「破壊工作」と表現したが、ロシアとの関連は公には示されていない。
ポーランドは今月、「ロシアによる挑発」の脅威を理由に、領空の防護を拡充し、迅速な対応を可能にする防衛体制を強化すると発表した。
欧州最大手の兵器メーカーは、自社の施設や従業員を狙ったロシアの活動が活発化しているにもかかわらずほとんどひるんでいないと、このうち1社の従業員は語った。警備は強化され、冷戦時代の「体に染み付いた記憶」から、異常なまでの警戒につながっているという。
だが、防衛関連以外の主要企業は、自らを守る態勢がそれほど整っていない。フィンランド東部のエネルギー会社サボン・ボイマのユハ・ラサネンCEOは、「特に、何に直面しているのかさえ分からないような状況では」、電力網を100%防護することは不可能だと主張。
「物理的な警備や監視、カメラ、さまざまな種類の検知手段が常に強化されている」と述べつつ、「しかし最も重要なのは、停電への耐性を人々が身につけることだ」と続けた。
ロシアの攻撃は一方で、欧州のウクライナ支援を大幅に弱めることには成功していないという面も浮かび上がらせる。注目を集める事件の増加は、欧州の防衛支出増加やスパイ防止活動の連携強化、対ロシア追加制裁を求める論拠を後押ししている。
地獄を見せる
複数の西側安全保障当局者は、ウクライナのドローン攻撃でエネルギーインフラや物流拠点が打撃を受けて経済が苦境に陥ったロシアが、苦し紛れにこうした作戦に出ているとの見方を示す。
だが、ロシア側はウクライナから打撃を受ければ受けるほど、欧州に代償を払わせるべきだとの声が強まるだろうと考えている。ロシア大統領府に近い関係者は、同国は非対称的なハイブリッド作戦を通じて欧州に地獄を見せてやると率直に語った。
バルト3国のように最前線に位置する国々にとって、ロシアはとっくに一線を越えている。
リトアニアのブドリース外相は、「これはハイブリッドなどではない。実際に被害をもたらし得る爆発物の問題だ。犠牲者が出る可能性もある。人が死ぬかもしれない」と述べ、「われわれがこれを止めなければ、事態はエスカレートする」と強調した。
原題:Russia’s Attacks on Europe Get More Brazen and More Dangerous(抜粋)
--取材協力:Alan Crawford、Andra Timu、Gerry Doyle、Alberto Nardelli、Alex Wickham、Laura Alviz、Agnieszka Barteczko、Zosia Wanat、Andrea Palasciano、Michael Nienaber、Kirsi Heikel、Milda Seputyte、Ott Tammik、Ben Sills、Chloe Whiteaker、Tom Fevrier.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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