利上げそのものよりも「評価の方向性」が焦点に
9月15-16日にFOMC、17-18日には日銀金融政策決定会合が開催される。市場ではいずれも25bpの利上げがコンセンサスとなっており、焦点は決定そのものではなく、その後の利上げペースや到達点(ターミナルレート)に関する当局者の発言へと移っている。
金融政策が市場予想通りに決定される局面では、参加者の関心はどうしても声明文や記者会見の「ニュアンス」に向かう。しかし、そのような局面では客観的な事実以上に、その時点の「相場の方向性」や「市場の空気感」が評価を左右する面があることには注意が必要である。同じ発言でもタカ派的に受け止められることもあれば、ハト派的に解釈されることもある。特に、市場参加者はマーケットの動きで評価を下しがちである。
結論から先に述べると、筆者は今回のFOMC、日銀決定会合ともに、市場からはややハト派的な結果として評価される可能性が高いとみている。両中銀とも利上げを実施するとみられるものの、その後の利上げ加速を市場が強く意識する展開にはなりにくいだろう。
FRBは利上げへ、しかしタカ派の評価にはなりにくい
筆者はこれまで、①市場のインフレ予想(BEI)が比較的落ち着いていたこと、②長期金利上昇の主因が財政・債務問題への懸念であり、政策金利の引き上げによって抑制することが難しいことを理由に、今回のFOMCでは利上げが見送られる可能性が高いと考えていた。
しかし、足元では中東情勢の緊迫化と原油価格上昇を背景にBEIが上昇しており、FRBとしてはインフレファイターとしての信認維持を優先せざるを得なくなっている。実際、ハセットNEC委員長はCNBCのインタビューで「私たちはケビン・ウォーシュを非常に高く評価している。大統領も私も、彼とは長年の付き合いだ」「彼が明日どのような決定を下そうとも、私たちはそのプロセスを尊重する。彼とFOMCが正しいと考えることを行っていると理解するつもりだ」(ポリティコより筆者訳)と述べている。トランプ政権としても、今回の利上げは受け入れる構えなのだろう。
ただし、利上げ実施が即座にタカ派評価につながるとは限らない。ウォーシュ議長はこれまで、市場が将来の利上げを織り込むことで金融環境が自律的に引き締まる効果を重視してきた。しかし今回、原油高を受けて市場想定より早いタイミングで利上げを迫られることになれば、それは必ずしも思惑通りに政策運営が進んでいないことを意味する。市場では、ウォーシュ議長の政策運営が早くも試練に直面しているとの評価が広がる可能性がある。そのため、仮に今回の会合で強いタカ派姿勢を示したとしても、「インフレ対応に追い込まれている」と解釈される可能性がある。
結果的に、ウォーシュ議長としては、市場機能を重視するという従来のスタンスを大きく変更しにくいのではないか。利上げを実施しても市場が期待するほどタカ派色は強くならない可能性が高い。批判を避けるために慎重なコミュニケーションを続ければ、市場ではビハインドザカーブだという指摘が増えるだろう。
長期金利上昇の本質は債務問題、市場の評価は厳しくなりやすい
さらに重要なのは、足元の米長期金利上昇がインフレ懸念だけで説明できないことである。
現在の金利上昇には、米国政府の財政リスクや、民間部門の社債発行増への不安が色濃く反映されている。そのため、短期金利が25bp引き上げられたとしても、インフレ期待抑制を通じた長期金利低下効果は限定的となる可能性が高い。長期金利は高止まりし、イールドカーブはベアフラット化する公算が大きいだろう。
仮にツイストフラット化が実現すれば、それはFRBがインフレ期待を抑制し、長期金利上昇を抑え込むことに成功したとの評価につながる。しかしそうならなければ、長期金利上昇の背景が財政問題であったとしても、市場では「FRBの対応が十分ではなかった」と受け止められやすい。むろん、インフレ懸念の抑制に成功したかについては、BEIの動きなどを詳細に分析する必要がある。しかし、市場では長期金利の動きによってやや雑な評価が下されることが往々にして生じることも事実である。
また、9月15日にベッセント財務長官は米下院金融サービス委員会で「円高は米国の輸出にとって好都合だ」(Bloomberg)と発言している。中間選挙を意識した政治的発言という側面は割り引いて考える必要があるものの、政権としてドル安を通じて景気を支えたい意向があることも示唆しているようにみえる。その観点からも、FRBが市場に対して強いタカ派メッセージを発する余地は限られているだろう。
日銀は利上げ実施でも市場の期待を抑制する方向へ
結果的にドル円相場は大きくは動かず、150円台半ば程度で日銀決定会合を迎える可能性が高いと考えられる。
日銀は今回利上げを実施した場合、前回利上げからのインターバルが6ヵ月から3ヵ月へ短縮されることになる。この点について植田総裁には多くの質問が集中するとみられるが、おそらく「3ヵ月ごとの利上げが今後の標準スケジュールではない」との説明がなされるのではないか。
実際、TBS CROSS DIG with Bloomberg「The Priority」で紹介された日銀内部の声をみると、「価格上振れリスクは大きいと思っている人が多いだろう。中東も引き続き混迷で原油価格もまた上がっている」「ペースを速めることもあるしその逆もあるが、緩和的な状況が続いているのでやれるときにしたほうがいい。経済は底堅く、物価は上振れていて9月に利上げできる土壌だ」といった利上げを支持する見解が聞かれる。その一方で、「総裁は『ペースを速めることもありうる』と言っているが、到達点(ターミナルレート)が高くなるとは言っていない」との声も紹介されている。
これらを総合すると、日銀は利上げそのものには前向きである一方、市場で広がるターミナルレート上昇観測や連続利上げ観測をけん制したい意向を持っているようにみえる。市場で利上げが過度に織り込まれれば、いわゆる「催促相場」に陥り、仮に再度円安圧力が強まった場合には「連続利上げ」や「50bp利上げ」を期待する声が高まる可能性がある。日銀としては、そのような状況は避けたいだろう。
前述したように、FOMCがややハト派的に受け止められれば、為替面からみた日銀のタカ派姿勢を強める必要性は低下する。そうなれば、市場の利上げ期待を落ち着かせる方向のコミュニケーションを選択する可能性が高い。結果として、日銀決定会合についても、市場予想を大きく上回るタカ派サプライズにはならず、ややハト派的な評価に落ち着くだろうと、筆者は予想している。
≪決定会合を前にした日銀内部の声≫
◆「価格上振れリスクは大きいと思っている人が多いだろう。中東も引き続き混迷で原油価格もまた上がっている」
◆「ペースを速めることもあるしその逆もあるが、緩和的な状況が続いているのでやれるときにしたほうがいい。経済は底堅く、物価は上振れていて9月に利上げできる土壌だ」
◆「総裁は『ペースを速めることもありうる』と言っているが、到達点(ターミナルレート)が高くなるとは言っていない」
◆「(中立金利に)近づくとペースが遅くなるということではない」
◆「GDPでは輸入が減ったため全体ではプラスだが内需は弱い。インフレ加速のリスクがあるとは考えていない」
(TBS CROSS DIG with Bloomberg「The Priority」より)
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)