(ブルームバーグ):10日の米国債市場では、売りが加速した。原油相場の急伸でインフレ懸念が強まったほか、米財務省が規模増額の発表後初めて実施した国債買い戻しで、購入額が市場予想を下回った。
米国債相場の下落は取引序盤から始まり、2年債は2025年4月の市場急落以来、最大の利回り上昇となった。中東情勢の混乱が激化して原油相場が4カ月ぶりの高値に上昇したほか、8月の米生産者物価指数(PPI)統計がインフレ圧力の高まりを示したことが背景にある。
相場の動きには、ベッセント米財務長官による異例の市場介入への疑念も拍車をかけた。ベッセント氏の措置は市場を安定させ、経済全体の借り入れコストを押し上げている長期金利の上昇を抑えることを狙ったものだ。
こうした疑念は9日、拡大を発表した買い戻しの規模がトレーダーの期待に届かなかったことで強まり、10日の購入額が事前に示していた上限の60億ドル(約9260億円)には届かなかったことで一段と膨らんだ。財務省による残存10-20年の国債買い戻しは51億9000万ドルにとどまった。
今回の買い戻しは、過去6カ月にわたって続く米国債売りを和らげるトランプ政権の能力に対する懐疑的な見方を強めた。イランとの戦争が終結する兆しがなく、政府の財政赤字を抑制する計画もない中、投資家はベッセント氏の措置による効果は限定的にとどまる公算が大きいとみている。
DWSアメリカズの債券部門責任者、ジョージ・カトランボーン氏は「ベッセント氏は銃撃戦に水鉄砲で挑んでいるようなものだ」と指摘。「現在の連邦債務残高、財政赤字、インフレを巡る懸念を踏まえると、投資家が米30年債を買うために求める上乗せ金利を抑えるには不十分だ」と論じた。

利回り上昇を主導したのは、米連邦準備制度の金融政策変更の影響を受けやすい短期債だった。トレーダーは、米金融当局が来週にも利上げする可能性を織り込む動きを強めている。
2年国債利回りは16ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.59%となった。1日の上昇幅としては、トランプ大統領が2025年4月に関税措置を打ち出したことが契機となった相場急落以来、最大となった。10年債利回りは12bp上昇し、23年終盤に付けたピークに迫った。30年債利回りは8bp上昇の5.37%と、19年ぶりの高水準を更新した。
ミシュラー・ファイナンシャル・グループの金利セールス・トレーディング担当マネジングディレクター、トニー・ファレン氏は「原油価格の上昇はインフレを押し上げる。いったん経済全体に波及し始めれば、抑えるのは難しくなる」と指摘。「インフレが高止まりする限り、利回りの低下は望めない」と述べた。
中東情勢の悪化で世界の原油供給を巡る懸念が強まり、北海ブレント原油は1バレル=107ドルを超えた。紛争の焦点となっている重要航路ホルムズ海峡周辺で攻撃が増えていることや、米国とイランが紛争の沈静化に向かっている兆候が全く見られないことから、トレーダーの動揺が広がっている。
トランプ氏が2月に戦争を開始して以降、エネルギーコストの上昇を背景に世界の債券利回りは着実に上昇している。トランプ氏が当初示していた早期勝利への自信は、長期化する膠着(こうちゃく)状態へと変わった。新規債券の供給が膨らんでいることに加え、底堅い米経済やAI企業による巨額の設備投資も一因となっている。
11日午前のアジア市場の取引では、オーストラリアとニュージーランドの国債利回りが急上昇した。オーストラリアの10年債利回りは11年以来の高水準に上昇し、ニュージーランドの10年債利回りも2年超ぶりに5%に達した。
ヘッジファンド運用者出身のベッセント氏は、11月の議会中間選挙を前に、米国民の借り入れコストに波及している金利上昇圧力を和らげようとしている。
ベッセント氏は先月、米財務省による国債買い戻しの規模を拡大すると発表し、市場を驚かせた。ファンダメンタルズと乖離(かいり)した市場を安定させるための措置だと説明したものの、利回りは上昇を続けている。ベッセント氏が使える手段がある程度限られていることも一因だ。
9日には、拡大後初となる買い戻しの規模が発表されたが、一部アナリストの予想を下回った。さらに10日には、米財務省に105億ドルの売却申し込みが寄せられたにもかかわらず、実際の買い戻し額は上限を下回った。
アナリストは、この結果を過度に解釈すべきではないと指摘し、売り手から提示された不利な条件の応札を拒否したことが原因である可能性が高いとの見方を示した。ベッセント氏自身も同様の説明をした。
ベッセント氏は10日、「リアル・アメリカズ・ボイス」の番組で、「われわれは安い場合だけ国債を買い戻す」と発言。「投資家は長期債を保有し続けたいようだ」と語った。
それでも、買い戻し結果は相場の重しとなった。米国債は金利スワップ対比で割安化し、買い戻しの中心だった20年ゾーンでその動きが最も顕著だった。
TDセキュリティーズのストラテジスト、モリー・ブルックス氏は「この年限の買い戻しでは、財務省が通常より選別姿勢を強めたことを示している」と分析。その上で、「米財務省が市場の期待に応え、長期金利を低く抑えるため買い戻し予定額を全額消化したいのであれば、今後の買い戻しでは一段と条件の悪い応札も受け入れる必要があるかもしれない」との見方を示した。

買い戻しの拡大を受け、米財務省が国債入札を「定期的かつ予測可能」に実施してきた慣行から転換し、米国債管理で一段と積極的な手法を取るのではないかとの観測が広がっている。長期債の発行額を減らし、財政赤字の資金調達で短期債への依存を強めることも選択肢に含まれる可能性がある。
ハイライン・アセット・マネジメントの債券担当マネジングディレクター、ベン・エモンズ氏は、ベッセント氏が買い戻しを段階的に拡大するかどうかを見極めようとしている市場参加者もいる可能性があると話す。
エモンズ氏は「ベッセント氏は市場に次の一手を読ませないようにしている」とした上で、「市場は利回りを押し上げることで、ベッセント氏に手の内を全て明かすよう迫っている」とコメントした。
原題:Treasury Yields Surge as Oil, Buyback Results Fuel Selloff (2)(抜粋)
(12段落目に市場の動向、17段落目にベッセント財務長官の発言を追加して更新します)
--取材協力:Edward Bolingbroke、Alex Harris.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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