(ブルームバーグ):中国は数十年にわたり、台湾に対する海洋を巡る圧力を台湾海峡に集中させてきたが、今では新たな動きが顕著になっている。米国の同盟国と台湾を結ぶ重要な生命線である太平洋側の台湾東方沖にもかつてないプレッシャーをかけている。
日本とフィリピンがこの海域に重なる海洋境界を画定する方針を発表した後、中国は6月以降、台湾東方に月平均2隻の海警局巡視船を展開している。こうしたパトロールがこの海域で報告されたのは、2025年1月までさかのぼるデータで初めてだ。
船舶追跡データを基にブルームバーグが算出したところ、この海域での巡視範囲は2万7100平方カイリ(約9万2950平方キロメートル)と、台湾の面積の2倍を超えた。船舶は台湾東岸から30カイリ(約55.6キロメートル)離れ、台湾が領海と主張する海域の外側にとどまった。
仮に中国が台湾に侵攻すれば、効果的な海上封鎖を実施するには東方海域の掌握が不可欠になる。太平洋岸沖の海運が寸断されれば、商品市場にも世界的な影響が及ぶ。
マリントラフィックのデータによると、石油やガス、鉄鉱石、農産物を輸送する船舶は6月に東方海域を527回通過し、通常はより交通量の多い台湾海峡の420回を上回った。
米フロリダ国際大学政治・国際関係学部のジン・ゲー講師は「台湾海峡が表玄関だとすれば、東方海域はしばしば裏口と見なされてきた」と指摘。「中国政府はこの裏口がもはや争われることのない場所ではないと示そうとしている」と述べた。
台湾海峡は世界のコンテナ船のほぼ半数が通過する一方、台湾東方はフィリピンやより広い太平洋地域との海上連絡路を形成しており、戦略的に重要だ。こうした航路は主要港や軍事施設につながり、米国と地域の同盟国が物資を供給する際に利用できるほか、水深が深いため潜水艦の活動や海中監視にも適している。
中国海警局は自らの行動を「通常の法執行」パトロールだと説明し、中国の海洋権益を守るため巡視を強化すると表明している。
中国共産党が台湾を統治したことは一度もない。しかし、中国は台湾を自国領土の一部だと主張し、これまでにもこの海域を含め台湾を包囲する事態を想定した軍事演習を実施している。
台湾海巡署は中国の活動について、「『法執行パトロール』をてこに、台湾東方海域での海洋活動を新たな常態として定着させようとしている」と電子メールでコメントし、これに対応し、適時に船舶を派遣していると強調した。
米国は、中国の行動を「極めて不安定化を招く」と批判している。
海洋境界
中国海警局の役割は近年、従来の法執行の枠を超えている。2021年に施行された海警法はその実態を明確に示した。同法は、中国政府が自国の主権と定義するものを守るため、「武器の使用を含むあらゆる必要な措置」を取る権限を海警局に認め、その活動範囲を拡大した。
台湾周辺での新たな活動は6月1日に始まった。中国海警局は5000トン級の「岱山」と3000トン級の「白塔」という大型巡視船2隻を台湾東方海域に展開した。
両船はそれ以前、東シナ海で運用されており、沖縄県・尖閣諸島周辺でも活動していた。その数日前、日本とフィリピンは海洋境界を画定するための交渉を開始する方針を発表した。米国の同盟国である両国が関係を深化させる幅広い取り組みの一環だ。中国は、この協議が自国の海洋権益の主張に干渉するとして反対している。
米海軍大学中国海洋研究所のライアン・マーティンソン助教は、「日本とフィリピンが発表した共同声明を口実に、中国政府はこの海域でのプレゼンスを大幅に拡大している」と語った。
中国は6月、さらに大型の法執行船である1万トン級の「海巡09」と6600トン級の「海巡06」を派遣し、台湾周辺を一周させた。この異例の複数機関による活動には、救助船と中国最大の深海調査船も加わった。
5日間の航行中、これらの船舶は台湾の太平洋岸沿いを航行する外国商船に初めて問い合わせを行った。中国国営メディアによれば、交通管制能力を強化する任務の一環として、通過する船舶198隻を「検査」した。検査が具体的に何を意味するのかは不明だった。
英国を拠点とするシンクタンク、中国戦略リスク研究所の政治リスクアナリスト、ザック・リアオ氏は「こうした接触が常態化すれば、次の問題は中国当局がより多くの情報を求め始めるかどうか」で、「その次は、航行に関する指示を出すかどうかだ」と述べた。
米国を拠点とする独立系監視団体、武力紛争位置・事象データ(ACLED)は、海底通信インフラに近い台湾東方沖で「異例に低速で航行する調査船が大幅に増加している」と報告している。
中国は圧力を維持し、この海域で1カ月活動した岱山と白塔を交代させるため、さらに海警局の巡視船2隻を派遣した。
米議会の委員会は、中国が継続的に存在感を示そうとするための手段だと分析。米中経済安全保障調査委員会(USCC)は「人民解放軍海軍ではなく海警局を使うことで軍事的な衝突を回避し、こうした活動を法執行として位置付けることができる一方、将来の海上封鎖に必要な恒常的なプレゼンスを確立できる」と論じた。
こうした活動が活発化する中、台湾は7月中旬、南東部沖の蘭嶼と緑島で30年ぶりに軍事演習を実施した。その数週間後、中国は同じ海域でインドネシアとの航行演習を実施した。中国が台湾東方海域で他国との演習を発表したのは初めてだった。
アナリストらによると、台湾東方でプレゼンス確立を図る中国の動きは、最終的に米国に対応を迫ることになる。リアオ氏は「中国政府が台湾東方で試しているのは、西太平洋の航行と海洋秩序を誰が統治するのかという認識を徐々に書き換えられるかどうかだ」との見方を示し、「つまり、対応も国際的なものでなければならない」と話した。
原題:China Piles Pressure on Taiwan Via New Patrols Off Pacific Coast(抜粋)
--取材協力:林妙容、Christopher Udemans、Colum Murphy、Weilun Soon、Yian Lee、Josh Xiao.
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