(ブルームバーグ):投資家の間では、米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長に対し、高インフレを強くけん制し、米国債市場の長期ゾーンを下支えするよう求める声が相次いでいる。
ウォーシュ氏がジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)で28日に行う講演で物価安定への明確なコミットメントを示せば、米30年国債への買いを促す可能性がある。そうなれば、先週2007年以来の高水準を付けた利回りの低下につながる。
また、長期債の売りを食い止め、膨らみ続ける米国の利払い負担を管理しようとするベッセント財務長官の取り組みにも追い風となる。
JPモルガン・チェース、アポロ・グローバル・マネジメント、モルガン・スタンレーでFRBの動向を注視する市場関係者は、ウォーシュ氏にはインフレ抑制が最優先課題だと市場に納得させる機会があるとみている。
それができれば「FRBの信認を巡る懸念の一部は和らぐだろう」と、JPモルガン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は述べた。
このため、ジャクソンホールでの講演は、議長にとって就任後早い段階での重要な試金石となる。ウォーシュ氏の明確さを欠くコミュニケーション姿勢は投資家を困惑させ、同氏が率いるFRBが物価上昇の抑制にどこまで真剣に取り組んでいるのか疑念を招いている。
米国のインフレ率は過去5年間にわたりFRBの2%目標を上回って推移している。米30年国債利回りも、長期債の買い戻し計画を含むベッセント氏の介入にもかかわらず、過去2カ月にわたり節目の5%を上回っている。借り入れコストの高止まりは、米住宅市場やプライベートエクイティ(PE、未公開株)会社、中小企業のいずれにも重荷となっている。
ウォーシュ議長の講演を控え、追加利上げの必要性を巡ってFRB当局者の見解は分かれている。米ボストン連銀のコリンズ総裁は、現在の金融政策スタンスが米経済を抑制し、インフレ鈍化に寄与していることを示す兆候が依然としてあるとの見方を示した。
一方、7月FOMCで反対票を投じたクリーブランド連銀のハマック総裁は同日、現在の金利水準では、物価上昇圧力が自然に和らぐほどには景気を抑制できていないとの考えを示した。
根強いインフレへの対応を巡るこうした見解の相違に加え、政府の財政赤字や膨らむ債務への対応意欲が乏しいとの懸念もあり、30年国債利回りは先週5.34%と、世界金融危機以来の高水準まで上昇した。28日のアジア時間には5.20%だった。
同時に、注目度の高いニューヨーク連銀のタームプレミアム(長期債に対する上乗せ利回り)指標は、2014年以来の水準付近で推移している。
「FRBがインフレに重点を置いているなら、タームプレミアムは大幅に低下するはずだ。FRBの信認が今よりはるかに高まるからだ」と、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントでブロードマーケッツ債券チームを率いるビシャル・カンドゥジャ氏は述べた。
市場参加者は、ジャクソンホール会合でウォーシュ氏が発する一言一句を精査することになる。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見では、さまざまな経済情勢に政策当局者がどう対応する可能性があるのかについて説明を拒んだ。ある発言から、FRBのインフレ目標が1月に変更される可能性があるとの見方が一部で浮上し、不透明感が強まって長期国債の売りを招いた。
JPモルガンのグローバル金利戦略責任者、ジェイ・バリー氏によると、ウォーシュ氏が28日にそうした発言の一部を修正すれば、「米国債のイールドカーブ(利回り曲線)はベア・フラット化(短期金利が長期金利より速いペースで上昇する局面)が進む可能性が高い」という。
アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、ウォーシュ氏は「7月の記者会見よりも明確な内容を示す必要がある」と指摘。次の金利変更を予告する必要はないものの、優先課題を明確にするため、インフレと雇用市場の現状について自身の見解を示すべきだと強調した。
その上で「政策判断の枠組みについて何の指針も示さなければ、長期金利がはるかに大きく上昇するリスクがある」と警告した。
ブルームバーグのストラテジストの見方
「ウォーシュ氏が従来の姿勢を変えてジャクソンホール会合で何らかの指針を示さない限り、9月のFOMCの決定について確信を持てるかどうかは、結局のところ雇用統計と消費者物価指数(CPI)次第になりそうだ」
-ブルームバーグ・マーケッツ・ライブのストラテジスト、キャメロン・クライス氏
投資家は、米国債のイールドカーブ全体で利回りが高止まりしている背景には複数の要因があるとみている。長期ゾーンでは、40兆ドル(約6400兆円)を突破した過去最大の米政府債務が重荷となっている。短期ゾーンでは根強いインフレが利回りを高止まりさせ、いわゆる中期ゾーンではAI大手による大量の資金調達が上昇圧力を生んでいると、スロック氏は分析。「イールドカーブ全体が上昇するリスクがある」と語った。
ウォーシュ氏の講演はまた、来週発表される8月の雇用統計や、9月15、16日のFOMC会合のわずか数日前に発表されるCPIを前に、マクロ経済見通しを示す機会でもある。市場は現在、来月に0.25ポイントの利上げが行われる確率を約35%織り込んでいる。
ウィズダムツリーの投資戦略責任者、ケビン・フラナガン氏は「最終的に判断を左右するのは、依然としてデータであり、ウォーシュ氏の講演後、市場が注目するのもそこだ」と言及。「2年国債利回りはなおフェデラルファンド(FF)金利を上回っている。これはウォーシュ氏を巡る一定の不確実性プレミアムを反映しているほか、7月の雇用とインフレのデータが軟化した後も、市場が利上げの可能性を排除していないことを示している」と述べた。
原題:JPMorgan, Apollo Urge Inflation Focus for Warsh’s Big Speech (1)(抜粋)
(第8段落以降にFRB当局者の発言などを追加して更新します)
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