(ブルームバーグ):アジア新興国・地域の中央銀行は、外貨準備を取り崩さずに通貨を支える手段を相次いで講じている。中東情勢の緊張に加え、米金利が一段と長期にわたり高水準にとどまるとの観測が、当局の警戒感を強めている。
インドは高利回りのドル建て預金を通じ、海外在住のインド人から約400億ドル(約6兆3090億円)を呼び込み、5月に過去最安値を付けたルピーの回復を下支えしている。韓国は企業によるドル資金の本国還流を加速させる取り組みを進め、ウォンは2022年以来最大の月間上昇率を記録した。
このほか、インドネシアは海外ファンドに優遇措置を提供し、過去2カ月で16億ドルの債券資金が流入した。台湾も通貨安局面で輸出企業に米ドル売りを促している。中東紛争を受けて原油相場が急騰後、こうした措置により当局の選択肢は広がっており、通貨防衛の第一線を担った利上げや為替介入など従来の手段を補完している。
ただ、原油高でエネルギー輸入への依存度の高さが浮き彫りとなり、アジア新興国・地域の通貨は引き続き軟調に推移。米国とイランが合意に近づいているとの最近の兆しを受けて、原油相場が下落する局面があっても、アジアの幾つかの通貨は年初来の下落率が大きい状況が続いている。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)グローバル・リサーチのアジア為替・金利戦略責任者、クラウディオ・パイロン氏は「動機となる要因はさまざまだが、ボラティリティーと不確実性が構造的に高まる中で、外貨準備を可能な限り温存することにある」と解説。「為替の安定を守る必要性と国内の流動性を維持する必要性の両立を図っている。資金を呼び込むことが、この目標を達成するための重要な戦略だ」と話した。
ブルームバーグが追跡する新興国・地域22通貨のうち、インドネシア・ルピア、インド・ルピー、タイ・バーツは今年の下落率が大きい5通貨に入っている。
これとは対照的に、中南米通貨はランキング上位を占め、コロンビア・ペソ、ブラジル・レアル、メキシコ・ペソが先頭に立っている。同地域は他の新興国の多くよりも金利が高く、産油国も多いため、原油高の影響を比較的受けにくい。
シンガポールのウェスタン・アセット・マネジメントで投資運用責任者を務めるデズモンド・フー氏は中南米通貨について、高めの利回りを背景に「トータルリターンで優位性を維持する可能性がある」と指摘。「それでもスポットベースでは、米国債利回りが安定し、エネルギー市場の混乱が激化せず、AI投資サイクルがテクノロジー輸出と域内の設備投資を引き続き支えるなら、アジアの一部通貨が差を縮める可能性がある」との見方を示した。

アルパイン・マクロやステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、M&Gインベストメンツなどの複数のアナリストは、貿易黒字や堅調なマクロ経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)、力強い輸出、好調な株式市場など域内の好材料を踏まえると、アジア通貨の下落幅は予想外に大きいとしている。
「これは不均衡の原因が貿易のファンダメンタルズよりも資本フローの構成にあることを示唆しており、為替介入だけでは通貨安への対応として十分でない可能性がある」と、M&Gのアジア債券責任者、ロー・グアン・イー氏はコメント。「こうした状況を背景に、当局は外貨流入の源泉を引き続き多様化するとみている」と語った
一方、日本の通貨当局は為替介入への依存を強めている。日本と米国が7月末に1998年以来初めて実施した円買い協調介入は、円相場の大幅な反発を促す要因となった。
もっとも、アジア新興国・地域の中銀が従来の防衛策を放棄しているわけではない。
インドネシア中銀は5月と6月に計100ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利上げを実施し、インド準備銀行と同様、為替市場介入も続けている。両国はフィリピン、タイとともに、イランでの戦争の開始以降、アジアで最も大幅な外貨準備の減少を記録し、減少率は4-9%に達している。
フィリピン中銀は50bpの利上げを実施し、韓国銀行も先月、3年ぶりに政策金利を引き上げた。三菱UFJ銀行は、インドネシアとフィリピンがそれぞれあと2回、韓国が今年少なくともあと1回利上げすると予想している。
米国の金融政策の行方は引き続き投資家にとって重要だ。特に、米地区連銀総裁3人が、先月の政策金利据え置き決定に反対票を投じたことが注目されている。反対票を投じた総裁らは、インフレへの対応が遅れ過ぎれば、後に一段と積極的な政策対応が必要になるリスクがあるとしている。
シンガポールの三菱UFJ銀行でシニア為替アナリストを務めるマイケル・ワン氏は「アジアの中銀は、原油相場やエルニーニョ現象、米国債利回り、ドルが最終的にどう推移するかなど、世界情勢を巡る不確実性が高まっていることで、多くの政策余力を温存している」とし、「一層多くのドル資金を呼び込むことが戦略の柱の一つになる」と話した。
原題:Currency Defense Gets Makeover as Emerging Asia Guards Reserves(抜粋)
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