イラン戦争の開始以降、ホルムズ海峡でのイランによる船舶への攻撃や、米国によるイラン港湾の封鎖を受け、中東からのエネルギー輸出やその他の商品輸送が滞っている。

外交努力によってホルムズ海峡の通常航行が回復したとしても、今回の紛争は、容易に閉鎖されたり通航が妨げられたりする単一のルートに大きく依存することのリスクを浮き彫りにした。

ホルムズ海峡は今後も、中東地域が最大限の輸出能力を発揮する上で極めて重要だが、湾岸諸国は世界経済に不可欠な石油と天然ガス、金属、化学製品を輸出するため、幅広い代替ルートを模索している。

各国政府は海峡を迂回(うかい)して輸出できるよう、パイプラインや港湾などの輸出インフラに投資している。ただ、一部のルートには固有のリスクもある。イエメンの親イラン武装組織フーシ派は紅海でタンカーを標的にし始め、紅海南端に位置する狭いバブルマンデブ海峡の封鎖を宣言した。

原油

2月末に戦争が始まる前、世界の石油の約2割がホルムズ海峡を通過しており、内訳は原油が日量1500万バレル、石油製品が同500万バレルだった。戦争勃発後、この原油輸送量の合わせて半分超を占めていたサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は、何年も前に建設したパイプラインを使い、原油の多くをペルシャ湾外の港湾へ振り向けた。

サウジの東西パイプラインは、石油生産の国内中心地から紅海沿岸のヤンブー港まで日量700万バレルを輸送できる。戦争前の輸送量は同200万バレルにとどまっていたが、3月末までにサウジはフル稼働に引き上げた。

現在は輸出向けに日量約500万バレル、沿岸部の国内製油所向けに同200万バレルを輸送しており、サウジは能力増強も検討している。国営石油会社サウジアラムコによれば、サウジはヤンブーからの輸出能力を引き上げる計画も進めている。

こうした対応はホルムズ海峡を巡る問題の解決策にはなるが、紅海でフーシ派がもたらす脅威への解決策にはならない。このため、一部の海運会社はより長い航路を試し始めている。

アジア向けのサウジ産原油を積んだ大型原油タンカーは7月下旬、紅海北端のスエズ運河を通過して地中海に入り、その後アフリカを回って航行した。

航海が長期化しコストも増える代わりに、バブルマンデブ海峡を回避した。ただ、この航路も攻撃を受ける可能性がある。7月29日には、スエズ運河の入口近くにあるエジプトのダミエッタ港で液化天然ガス(LNG)運搬船2隻が攻撃を受けた。

UAEもホルムズ海峡を迂回するため、東海岸のフジャイラに通じる自国の比較的小規模なパイプラインを利用している。国際エネルギー機関(IEA)によると、戦争勃発前の輸送量は日量110万バレルで、輸送能力の少なくとも3分の1が使われていなかった。

船舶追跡データによれば、近隣の貯蔵施設からも供給を受けるフジャイラのターミナルからの輸出量は急増。来年初めまでには新たなパイプラインが完成する予定で、これによりUAE政府の輸送能力は日量約400万バレルに拡大する。

UAE当局者によると、政府は3本目のパイプラインも検討しているほか、東海岸沿いの港湾を大幅に拡張する計画があり、実現すればホルムズ海峡への依存度を大きく引き下げることになる。

サウジとUAEの迂回ルートはすでに、市場への十分な供給を維持し、原油価格の一段高を防ぐ上で重要な役割を果たしている。

ユーラシア・グループによれば、両国の投資によって、2030年までにホルムズ海峡を通過する石油の量は戦争前の半分未満に減る可能性がある。原油輸出を維持できていることで、サウジとUAEはクウェートやイラクよりも、戦争による経済的打撃から早く回復できる公算が大きい。

石油輸出を全面的にホルムズ海峡の通航に依存しているクウェートは、戦争が最も激しかった時期に同海峡がほぼ閉鎖されたことで、国内生産量が1990年代初頭以来の低水準に落ち込んだ。クウェートはサウジと迂回ルートの選択肢について協議している。

イラクは2025年、日量370万バレルの原油輸出の約9割をホルムズ海峡経由で輸送した。今は野心的な計画を掲げている。米国の支援を受け、20年以上にわたり停止しているキルクークとシリアのバニヤスをつなぐパイプラインの再建を検討している。

このパイプラインはイラクのキルクーク油田とシリアの地中海沿岸を結ぶ。イラク政府はまた、南部最大の石油生産地域バスラから北部ハディーサまでパイプラインを敷設し、そこからシリアとトルコ、ヨルダン方面へ分岐させる構想も見据える。

戦争勃発後、イラクはキルクークとトルコの地中海沿岸にあるジェイハン港を結ぶキルクーク・ジェイハン・パイプラインを通じ、一部の石油を輸出できている。

同パイプラインの技術上の輸送能力は日量150万バレルだが、6月時点の輸出量は日量約18万バレルにとどまっていたと、イラク国営石油販売公社の局長が当時述べていた。8月初めにはイラクとトルコが同パイプラインの利用を継続し、輸送量を増やすことで合意した。

サウジとUAE、イラクの計画はいずれも巨額の費用を伴い、建設に数十億ドル規模の投資が必要な上、その後も長年にわたり維持費がかかる。これらのパイプラインは国境や武装勢力がなお活動する地域を通るため攻撃を受けやすく、投資家は政治・安全保障上のリスクを考慮する必要がある。

LNG

戦争前には、世界のLNG供給量の約2割がホルムズ海峡を通過していた。その大半はカタール産だ。カタール北東部には世界最大のLNG輸出拠点ラスラファンがある。UAEも、より小規模なプラントからLNGを輸出していた。

ただ、石油と異なり、LNGをパイプラインで輸送するのは難しい。LNGは天然ガスをマイナス162度まで冷却して液化したもので、輸送中も液体の状態を保つため専用タンカーが必要になる。

長距離のパイプラインをこうした低温に維持するには非常に大きな費用がかかる。このためLNG輸出国は、当面ホルムズ海峡に大きく依存せざるを得ない。

天然ガスを液化する前の気体の状態でパイプライン輸送し、ホルムズ海峡の外にある施設で液化することは可能だ。しかし、そのためには新たな液化施設を建設する必要があり、ペルシャ湾内にある既存の巨大施設が不要になる。カタールとUAEはいずれも戦争前から、湾岸域内のLNG輸出能力に数十億ドルを投じ始めていた。

石油製品

戦争前、中東はガソリンとディーゼル、ジェット燃料、液化石油ガス(LPG)などの石油製品を日量約500万バレル、ホルムズ海峡経由で輸送しており、その大半は欧州向けだった。

ホルムズ海峡の封鎖に加え、イランがサウジとUAE、クウェート、バーレーンの製油所を攻撃したことで、こうした輸送は大幅に制約された。

ブルームバーグNEFによると、戦争によって石油精製能力の最大40%が失われた。世界最大級の製油所であるUAEアブダビ首長国のルワイスやサウジのラス・タヌラなども攻撃で被害を受けた。

被害の修復と生産拡大に向けた取り組みが進んでいるほか、サウジ政府がヤンブーの輸出能力を引き上げる計画を進めており、石油製品の出荷回復につながり得る。

さらにUAE当局者は6月、計画中の新たなパイプラインの1本を石油製品の輸送に利用する可能性があり、理論上はそこからオマーン湾の港を経由して出荷できるとの見方を示した。UAEはこれらの港を拡張する計画だ。

イラクは、船舶や発電所で広く使われる石油製品の燃料油をトラック数千台で国境を越えてシリアへ輸送しており、地中海沿岸のバニヤス港は燃料油の主要拠点となっている。

ただ、この輸送量はタンカーがホルムズ海峡経由で運べる量を大きく下回るため、将来も貨物の大半を輸送し続けるには海上輸送が最も可能性の高いルートとなる。

アルミニウム

中東は世界のアルミニウム生産量の約1割を占める。特にUAEとバーレーン、カタールの製錬所は、自動車、建設、航空宇宙分野で幅広く使われる特殊アルミ製品の供給元として、生産量以上に大きな役割を担っている。

戦争が汎用(はんよう)品アルミ市場の供給全体に及ぼす影響は、ペルシャ湾で代替物流ルートが確保されたことで一部緩和されている。アルミ製錬の主要原料であるアルミナなどの原材料が湾岸域内に事実上流入しなくなったことで、域内の製錬所が広範囲に操業停止に追い込まれる恐れがあった。

しかし戦争が長期化する中、生産各社は代替港からの輸入を通じて原材料の供給を安定させることに成功している。特にオマーンは重要な物流拠点となっており、ばら積み船がアルミナを荷揚げし、そこからトラックで内陸の湾岸地域にある製錬所まで輸送できる。

それでも域内の生産各社は生産能力の縮小を余儀なくされており、ホルムズ海峡を通る物流の混乱が続く間は、生産を全面的に回復させるのは難しい可能性がある。

肥料

ペルシャ湾岸には、カタール・ファーティライザーやファーティグローブ、サウジ基礎産業公社(SABIC)など、世界最大級の窒素肥料・リン酸肥料メーカーが拠点を置く。イランも戦争前は有力な輸出国だった。紛争勃発前には、世界の海上肥料貿易の約3分の1がホルムズ海峡を通過していた。

戦争が始まると、西半球の農家が季節的な施肥期を控える中、窒素肥料とリン酸肥料の価格は当初、数年来の高値まで上昇した。その後、海峡が一時的に再開されると価格はより通常の水準に戻ったものの、7月に緊張が再び高まって以降、市場の需給は引き締まった状態が続いている。

不透明感が再び強まったタイミングも微妙だ。ブラジルやアルゼンチンなど南半球の主要農業生産国では、作付け期を前に輸入需要が加速している。

UAEの政府系肥料メーカー、ファーティグローブは一部の輸出品を陸路でオマーン湾岸の港へ迂回輸送しているが、この代替ルートはコストが大幅に高く、物流も複雑で、輸送能力にも限りがある。

サウジは一部の肥料輸出で紅海ルートを利用し始めたが、フーシ派による攻撃の再開で、この輸送路のリスクも高まっている。その結果、世界の肥料供給を安定的に維持するには、ホルムズ海峡を通る海上輸送が途切れることなく続くことが引き続き極めて重要となる。

原題:Bypass the Strait of Hormuz? Why That’s Not So Easy: Explainer(抜粋)

--取材協力:Tom Fevrier.

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