【記事の要旨】
・イギリスのEU離脱「ブレグジット」がもたらした経済的打撃と政治の大混乱
・グローバル化の敗者や移民問題に対する国民の怒りと、ポピュリズムの世界的拡大
・公約の未達や孤立化が進む中、経済だけが全てではないという重い教訓
EU離脱がイギリスと世界に残した代償
世界を変えた特別な日があります。その一つが、イギリスの欧州連合(EU)からの離脱、通称「ブレグジット」です。

2016年6月23日、3300万人以上のイギリス国民が一票を投じ、52対48という僅差でEUからの離脱が支持されました。それは半世紀近くイギリスの法律や貿易、政治を形作ってきた関係に終止符を打つ歴史的な決定であり、政治的な大地震となって世界中に余震を響かせました。この出来事は単なるイギリスの番狂わせではなく、グローバル化の限界を告げる警告灯だったのです。

グローバル化の格差と「怒り」が生んだ選択
投票に至るまでの選挙戦は異様なほど過激化し、ジョー・コックス下院議員が殺害される事件も起きるなど、社会の分断は極限に達していました。
ブレグジット論争の本質は、グローバル経済における「勝者」と「敗者」の深い格差にありました。安定した製造業の仕事を失った人々にとって、国際的なエリート層が進める多文化・多民族化社会は受け入れがたいものでした。「自分たちの国を取り戻す」「独自の歴史と固有のルーツを持った国民だ」という強い思いが、経済的なリスクの警告を上回り、人々を離脱へと突き動かしたのです。
しかし、離脱に投票した多くの人々はそれが何を意味するのか明確に見えておらず、小さなイングランドへの回帰を夢見る者、国民保健サービス(NHS)の充実を願う者、移民を防ぐ壁を建てる者など、異なる思惑が交錯していました。

経済への打撃と「5人の首相」を生んだ政治的混乱
10年が経過した現在、残留した場合のシミュレーションと比較すると、ブレグジットによるイギリスのGDPへの打撃は2〜4%程度と推計されています。EU関連の規制から逃れて金融分野などで一部の好調さを見せたものの、全体としてプラスに評価することは困難です。

それ以上に深刻だったのが、政治の身内争いと大混乱です。離脱決定以来、デービッド・キャメロン、テリーザ・メイ、ボリス・ジョンソン、リズ・トラス、リシ・スナクと、実に5人もの首相が次々と交代しました。ブレグジットの「裏切り」や「未完」を訴える政治家が支持を集め、ナイジェル・ファラージ氏らの台頭を許すなど、イギリス政治の構図は完全に塗り替えられました。
また、離脱派が強く期待した「移民の減少」も実現しませんでした。EUからの移民は減少したものの、労働力の空白を埋めるためにEU外からの移民が急増し、小型ボートでの不法入国なども相まって、主権を取り戻せていない現実が国民のさらなる不満と幻滅を生む悪循環に陥りました。
