原油価格の下落で株式市場は全体的に堅調
8月4日の米国株式市場は、イラン情勢が改善するという見方から原油価格が下落し、堅調な推移となった。ベッセント米財務長官が「ホルムズ海峡の開放に向けたイランとの合意が近く成立する可能性があるとの見通しを示したことなどが材料視された」(共同通信)。WTI原油先物価格は市場予想の中心とみられる80ドルを割り込み、景気を押し上げるという見方が増えている模様である。株式市場全体に楽観論が広がる中で、この日はナスダック指数やSOX指数もまとまった幅で上昇した。もっとも、6月に原油価格が下落した際、景気敏感株や消費関連株に物色が広がる中でAI・半導体関連株からは投資資金が抜けたようで、軟調な推移となっていた。AI・半導体関連株はスタグフレーション懸念の受け皿となって上昇してきた面もあるため、買い戻しが一巡した後には上値が重い展開になるだろう。
「小さなFRB」の下で安定する債券市場
8月4日の米国債券市場では、インフレ懸念が後退し、幅広い年限の金利が低下した。長期金利は前日比▲6.3bp、2年金利は同▲4.6bpだった。10年実質金利が同▲2.8bp、10年インフレ予想(BEI)が同▲3.5bpとなった。前日に続き、全体的に金利が低下しており、「大きな特徴がなかったこと」が特徴と言える動きである。
ウォーシュFRB議長がFRBのコミュニケーションを最小限にし、市場のスタビライザー効果を活用する姿勢を示していることから、市場の動きに特徴が出にくくなっているのだろう。仮にFRBがタカ派的だという認識が広がっている中で原油価格が下落していれば、必要以上にディスインフレ懸念が強まり、イールドカーブはブルフラット化し、BEIが大きく低下していくことが予想される。他方、FRBがハト派的だという認識が広がっている中で原油価格が下落していれば、FRBのハト派期待が強まり、イールドカーブはツイストスティープ化し、BEIはかえって上昇する展開が予想される。こういった特徴的な動きが生じないことが、ウォーシュ議長の狙いだろう。市場がFRBはタカ派にもハト派にも硬直的だと考える場合、市場のボラティリティも高まりやすい。一方でFRBがどのように動くのか分からないということであれば、市場は様子をみながらの動きとなる。
市場が勝手に調整していくことを企図した「小さなFRB」「マラドーナ理論」は、平時には市場の安定に寄与するだろう。市場が大きく変動した場合にその動きを是正することが難しいというデメリットはあるものの、当面の債券市場は安定的な推移になり、ボラティリティの低下にともなって長期金利は徐々に低下していくだろう。
「王様は裸だ」と言う高市政権のリスク
時事通信は8月4日の夕方に「高市早苗首相が5月に植田和男日銀総裁と会談した際、長期金利の上昇を抑えるため、必要に応じて国債を買い入れるよう求めていたことが4日、分かった」と報じた。
異次元緩和以降、日銀が国債を市場で大量に購入することが常態化し、「財政ファイナンス」(国債引き受け)ではないかという批判は少なくなかった。批判は少なくなかったというよりは、市場参加者のほとんどは「財政ファイナンス」だと認識しているとみられる。しかし、建前上は「財政ファイナンス」が目的ではないという前提になっている。実際に、筆者も6月の日銀の政策判断(1%への利上げと国債買い入れ減額措置を27年4月以降停止する決定)は、高市政権が消費税率の引き下げによる財政リスクを懸念したことが起点となったと考えてきた。
したがって、予想通りなので問題ない(市場への影響は限定的)、と言えるかというと、そうではないだろう。高市政権はこれまでの政権よりも日銀に対して強い圧力をかけている可能性が高いという認識が広がれば、日銀のビハインドザカーブのリスクは当然ながら高まる。
こういった動きは高市政権の市場リスクとなってきた。例えば、円安によって外貨準備の含み益が増えていることは事実だとしても、それに対して高市首相が「ホクホクだ」と言及したことで市場のボラティリティは高まった。プライマリーバランスの黒字化目標についても同様である。これまでの政権も黒字化目標を達成できてこなかったが、高市政権はこの目標を否定した。「骨太ショック」後、骨太の方針の文言が修正された際、骨太ショックは市場の間違いであり、仕方なく修正するという背景が政府関係者のコメントとともに報じられ、市場との対立構造が意識された。今回の時事通信の報道に対して「またか・・・」と感じた市場参加者は少なくないだろう。
むろん、このような率直な高市政権の姿勢がポジティブな動きにつながった例もある。これまであまり議論が進まない状態で規模だけが大きくなってきた補正予算については抑制し、しっかりと議論をした上で当初予算に経済対策を計上するという姿勢がそれにあたるだろう。
今回の「国債買い入れ」について、高市政権の意図しない形で報じられてしまった可能性はある。しかし、これまでの高市政権の率直なスタンスが市場のボラティリティを高めていることは事実だろう。このような動きは「王様は裸だという子ども」と近い。「王様は裸だ」と言う子どもはしばしば正しいが、その一言は周囲が必死に維持していた空気を壊してしまうこともある。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)