(ブルームバーグ):米国とのテクノロジー覇権争いが激化する中、中国はAIが主導する時代に向け長期的な成長基盤を整えようと、数兆ドル規模のインフラ整備に乗り出している。
覇権を制する鍵は先端半導体やAIモデルだけではなく、それらを支える電力網やデータセンター、通信ネットワーク、物流などの物理的なインフラにもあると中国政府はみている。
政府の取り組みは「六張網(6つのネットワーク)」として知られ、中国の最新5カ年計画に盛り込まれた。中国が交通やエネルギー、通信などの大型インフラ事業を個別に進めるのではなく、単一の統合プログラムとして推進するのは今回が初めてだ。
AI戦略を後押しするだけでなく、この計画を通じて製造業基盤を強化し、地政学的緊張や経済ショック、自然災害への耐性を高めるとともに、低炭素経済への移行を加速させる。
六張網とは
六張網は、中国全土の大規模な物理・デジタルインフラを高度化する国家プロジェクトだ。2030年までの完成を目指し、電力と水、通信、コンピューティング、物流、地下配管網の6分野を対象とする。中信建投証券は、総事業費が26兆元(約630兆円)を超えると試算している。
中核となるのがデジタルインフラだ。中国は高性能スーパーコンピューターセンターや汎用(はんよう)データセンター、AI向け計算拠点を整備するほか、超高速光ファイバー通信、衛星インターネット、第6世代(6G)移動通信網の構築を進める計画。
電力網も大幅に強化される。中国政府は長距離送電網の拡充や都市・農村部の送配電網強化、再生可能エネルギーを取り込む蓄電設備の増設も行う。
また、電力網をリアルタイムで監視し、電力の流れを調整するとともに、再生可能エネルギーの供給とデータセンターの需要を最適化するAI活用の配電管理システムの開発も計画している。

計画には交通・水インフラの刷新も含まれる。物流ネットワークでは、生産拠点と港湾、物流拠点の接続を強化する。治水分野では、堤防や護岸、ダムなど既存の洪水対策施設を改良するとともに、水資源の豊富な地域から乾燥地帯へ送水する導水事業や大規模灌漑(かんがい)を拡充する。
さらに、中国各都市の地下に77万キロメートルの上下水道やガス、地域暖房用配管を整備し、老朽化したインフラの更新や漏水・浸水の防止、都市開発を支える方針だ。
中国が六張網に巨額投資する理由
AIを巡る米国との競争により、インフラは中国政府にとって戦略的優先事項となっている。AIモデルの大規模化・高度化に伴い、膨大な計算能力や電力、冷却用水、高速通信網、効率的なサプライチェーンが必要になるためだ。中国はこれらを個別に整備するのではなく、一体的なシステムとして構築しようとしている。
特に注目されているのがコンピューティングと通信ネットワークだ。政府は全国各地に分散するデータ処理拠点を高速かつ安定したネットワークで接続し、余力のあるデータセンターへAI処理を振り分ける全国統合システムの構築を目指している。その仕組みは、電力が送電網を通じて流れる方式に似ている。
当局は、このネットワークが工場の自動化や自動運転車、ロボットなど幅広いAI活用を支える基盤になると期待している。
電力も重要だ。新たな送電網と再生可能エネルギープロジェクトは、データセンターに大量かつ低コストのクリーン電力を供給することを目的としている。データセンターの電力消費量は、設備容量ベースで世界最大の水力発電所である三峡ダムの年間発電量の約2倍に相当するという。
再生可能エネルギーの利用拡大は、中国のカーボンニュートラル目標の推進とエネルギー安全保障の強化にもつながる。
六張網のその他の取り組みも、より広範な経済政策を支える。物流網の整備は輸送コストを削減し、中国の人口集中都市の需要と遠隔山間部の供給を効率的につなぐことを目的とする。水関連事業は食料安全保障の強化と洪水・干ばつへの対応力向上を目指す。
また、地下配管網の近代化は生活環境を改善するとともに、不動産不況が続く中で建設需要を生み出すことも期待されている。
資金はどのように調達するのか
中信建投証券の推計によると、このプロジェクトへの投資額は、前回の5カ年計画(2021-25年)で6分野に投じられた総投資額を約50%上回る見通しだ。
洪水対策施設や導水事業など公共性の高いインフラは、国債や地方債の発行に加え、中国政府の戦略目標に沿った事業へ融資する政策銀行からの資金供給によって主に賄われる見込み。
物流拠点など収益が見込める事業については、官民パートナーシップ(PPP)を通じて民間資本を呼び込む方針だ。地下配管事業では、投資家に運営権を付与し、完成後も継続的な収益を得られる仕組みが想定されている。
電力やコンピューティング、通信ネットワークなど商業性の高い分野は、市場原理に基づく企業投資が中心になるとみられている。
計画は実現できるのか
中国には5カ年計画に基づく大型プロジェクトを実現してきた実績がある。こうした事業には毎年多額の公的資金が配分され、用地取得などの承認手続きも迅速に進められることが多い。
地方政府幹部にとっても、事業の進捗(しんちょく)や成果は人事評価や昇進に影響するため、計画を着実に進める強い動機がある。
一方、今回は資金調達が課題となる可能性がある。雇用環境の低迷や長引く不動産不況を背景に個人消費が弱く、経済成長は減速している。その結果、企業収益や設備投資も圧迫されている。
これまでインフラ投資の多くを担ってきた地方政府は、土地の使用権売却収入が2021年のピーク時の半分以下に落ち込んでいる。さらに中国政府は、世界金融危機以降に積み上がった巨額の簿外債務リスクを抑制するため、地方政府の借り入れ規制を強化している。
テクノロジー面の制約も計画を複雑にする可能性がある。米国が主導する輸出規制により、中国は最先端半導体へのアクセスを制限されており、プロジェクトの中核を担うコンピューティング・通信ネットワークの整備が遅れる恐れがある。
さらに、多分野にまたがる巨大プロジェクトだけに、省庁間の調整や行政手続きも課題となる。政府系の研究者は、省庁ごとの縦割り計画や技術基準の不統一、利益配分ルールの不明確さが重複投資を招き、計画の成果を損なう可能性があると警告している。
米国もAIインフラ整備を加速しているのか
シリコンバレーでも、より高度なAIシステムを構築し、中国とのAI覇権競争で優位を維持するには物理インフラが不可欠との見方が広がっている。
メタ・プラットフォームズやアルファベット傘下グーグル、アマゾン・ドット・コムなど米国の大手IT企業は、最先端AI半導体を搭載した大規模データセンターの建設に数千億ドルを投じる計画だ。
対話型AI「ChatGPT」を展開するOpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は以前、自社がAIの開発・運用インフラに「数兆ドル」を投資すると見込んでいると述べていた。
米政府もこの動きを後押ししている。トランプ政権はこれまで、連邦政府所有地や政府のリソースを活用したデータセンター建設や、電力消費の大きいAIデータセンター向けの十分な電力確保に向けた計画を打ち出してきた。
もっとも、すべての政策担当者が賛成しているわけではない。電力料金や環境への影響を懸念する地域住民の反対が強まる中、州政府を含む地方自治体ではデータセンター開発に対する姿勢を厳格化する動きも広がっている。
ニューヨーク州のホークル知事は最近、州内における大規模データセンターの新規建設を1年間停止すると発表した。これに対し、トランプ大統領はこれを「ひどい決定」と批判。さらにSNS投稿で、「データセンターは、それを誘致できる幸運な州や地域社会にとって非常に大きな利益となる」と主張した。
原題:How China Plans to Build the Backbone for an AI Era: Explainer(抜粋)
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